磁力線と磁束

磁力線と磁束 理論

第三種電気主任技術者(電験三種)試験に独学で合格できるよう、分野ごとに「考え方」や「解き方」の解説と過去問題をまとめています。このページで、電験三種の理論科目に出題される「磁力線と磁束」について、初心者の方でも解りやすく、基礎から勉強できます。

磁極と磁荷

磁石は鉄やニッケルを引き付けます。この力を磁力といい、磁力の元になる性質を磁気といいます。磁石は、常に磁気を帯びた永久磁石と、巻き付けたコイルに電流を流したときにだけ磁気を帯びる電磁石があります。

永久磁石の磁力は先端部で強くなります。この鉄やニッケルを引き付ける部分を「磁極」といいます。磁極にはN極(+極)とS極(-極)があり、互いに力を及ぼします。同種の磁極は反発し、異種の磁極は引き合います。

磁極の間にはたらく力は、磁気が磁極にあるためです。この磁気の量を「磁極の強さ」や「磁気量」または「磁荷」といい、$m$(単位:ウエーバー[Wb])で表します。一つの磁石でN極とS極にある磁荷の絶対値は等しいと考えられています。

磁荷は静電界における電荷と似ていますが重大な違いがあります。電荷は正電荷や負電荷が単独で存在できますが、磁極のN極とS極は常に一対で存在し、単独では存在しません。また、磁石を細かく砕いても、N極とS極をもつ小さな磁石になり、単一の磁極をもった磁石にはなりません。

磁界と磁力線

磁力の働く空間のことを「磁界」といい、その空間の磁力の強さのことを「磁界の強さ」といいます。磁力の働く様子を表す仮想曲線のことを「磁力線」といい、磁力線の様子は次の図のようになります。

磁力線
磁力線

磁力線の特徴

  • 磁力線はN極から出て、S極に入ります。
  • 磁力線の接線の方向は、その点での磁界の方向です。
  • 磁力線は途中で折れ曲がったり、枝分かれしたり、交わることはありません。
  • 磁界の強いところほど、磁力線は密になります。
  • 磁力線の密度と磁界の強さは一致しています。

磁極から出る(入る) 磁力線の数は 次の公式で求めることができます。

公式

磁力線の数の公式

$ N=\displaystyle \frac{ m }{ μ }$

$N$[本]:磁力線の本数
$m$[Wb]:磁極の強さ(単位はウェーバ)
$μ$[H/m]:透磁率(単位はヘンリー毎メートル)

透磁率 $μ$ とは、物質の磁化のしやすさを数値で表わしたもので、各物質が持つ固有の値です。$μ$ の読み方は「ミュー」 です。

磁束と磁束密度

磁力線が束になったものを「磁束」といいます。磁束は記号 $ϕ$(読みファイ)[Wb]で表されます。磁束は大きさだけで、方向のないスカラー量です。

磁束も磁力線と同じように、磁力の働く様子を表す仮想の曲線です。磁極から出る(入る) 磁束の数は、次の式で求められます。

公式

磁束 $ϕ$ と磁極の強さ $m$ の関係を表す式

$ϕ= m$

$ϕ$[Wb] : 磁束
$m$ [Wb]: 磁極の強さ

この式からわかるように、磁極の強さ $m$ の磁極からは、$ϕ$ の磁束が出る(入る)ことになり、このとき $ϕ= m$ の関係にあります。

磁力線の数を求める式 $N=\displaystyle \frac{ m }{ μ }$ と 磁束の数を求める式 $ϕ= m$ から次の事がわかります。

  • 磁力線の数は、その磁極が置かれた物質の透磁率 $μ$ によって変化する。
  • 磁束の数は、その磁極が置かれた物質の透磁率 $μ$ に左右されない。

単位面積あたりの磁力線の数を「磁束密度」といいます。磁束密度は記号 $B$ (単位:テスラ [T])で表されます。磁束密度は、磁界の強さ $H$[A/m]と透磁率 $μ$[H/m]をかけたもので方向性のあるベクトル量です。

公式

磁束密度 $B$ と磁界の強さ $H$ の関係を表す公式

$ B=μH$[T]

$B$[T]:磁束密度 (単位はテスラ)
$μ$[H/m]:透磁率
$H$[A/m]:磁界の強さ

磁束密度

ある空間の磁束密度が大きい(磁束が多い) 場合、磁界の強さは強くなります。また、磁界の強さが強ければ、磁束密度は大きくなる、という関係にあります。

磁束の量を断面積で割ると、磁束密度を求めることができます。

公式

磁束密度 $B$ と磁束 $ϕ$ の関係を表す公式

$B=\displaystyle \frac{ϕ}{S}$

$B$[T]:磁束密度 (単位はテスラ)
$ϕ$[Wb] : 磁束
$S$[m2] : 断面積

磁束密度

尚、磁束は磁束密度と面積が直交している必要があります。

透磁率と比透磁率

鉄片に磁石を近づけると鉄片が磁化します。この現象を磁気誘導といいます。鉄片を磁石のN極に近づけると、鉄片の磁石に近いほうはS極、磁石から遠いほうはN極に磁化されます。

ある物質の磁化のしやすさを表す値として、「透磁率」 $μ$[H/m]で表します。透磁率は磁化しやすい物質ほど値が大きくなります。

$ μ_{ 0 }$ (ミューゼロ)は「真空の透磁率」と呼ばれる定数です。真空の透磁率は磁界の強さがどれだけ空間に及ぶのかを表しています。空気中でもほぼ同じ値になります。尚、真空の透磁率 $ μ_{ 0 }$ は次の値を持ちます。

真空の透磁率 $ μ_{ 0 }=4π×10^{ -7}  $[H/m]

各物質の透磁率は異なりますので、真空の透磁率と比較した値である「比透磁率」で表すことで数値的な比較をします。比透磁率とは、ある物質の透磁率が真空の透磁率の何倍になるかを表す値のことです。誘電率に対する比誘電率と同じです。比透磁率を表す記号は $ μ_{ S }$ を使います。$ μ_{ S }$ は比率を表す量記号ですので、単位はありません。

公式

透磁率 ${ μ }$、真空の透磁率 ${ μ_0 }$、比透磁率 $μ_{ S }$ の関係式

比透磁率 $ μ_{ S } =\displaystyle \frac{ μ }{ μ_{ 0 } }$

$μ_{ S }$:比透磁率
${ μ }$[H/m]: 透磁率
${ μ_0 }$[H/m]: 真空の透磁率

磁気力

磁極と磁極の間にはたらく力を「磁気力」(=磁力=電磁力)といいます。その大きさは、それぞれが持つ磁荷の積に比例し、距離の2乗に反比例します。これを磁気に関するクーロンの法則といい、次の式で表します。

公式

真空中に置かれた二つの点磁極 $m_1,m_2$ に働く力の大きさ $F$ を求める公式

$ F=\displaystyle \frac{ 1 }{ 4πμ_{ 0 } }\frac{ m_{ 1 }m_{ 2 } }{ r^2}$

$ F$[N]:力の大きさ
$ m_{ 1 },m_{ 2 }$[Wb]:二つの磁極の強さ
$ r$[m]:二つの磁荷間の距離
$ μ_{ 0 }$[H/m]:真空の透磁率

磁気に関するクーロンの法則
磁気に関するクーロンの法則

磁界と磁力線

静電気力は、電荷のまわりにできる電界によって伝えられます。それと同様に、磁荷のまわりの空間を磁界(磁場)といいます。磁界によって磁極の間に力が伝えられると考えられています。磁界の大きさと向きは、1Wb の N極を置いたときに受ける力とその向きです。N極の磁極が右に行こうとするときは磁場の向きは右向きです。

磁界の強さは $H$(単位:ニュートン毎ウェーバ [N/Wb]または[A/m]) で表されます。

公式

磁界の強さ $H$ の磁界中に磁極 $m$ を置いた時の磁極に働く力 $F$ を求める公式

$ F=mH$[N]

$ F$[N]:力の大きさ
$m$[Wb]:磁極の強さ
$H$[N/Wb]または[A/m]:磁界の強さ

磁極に働く力

磁極により生じる磁界の強さ

磁力を帯びている磁極の周りには磁界が発生します。その磁極により生じる磁界の強さ $H$[N/Wb]または、[A/m]は、次の式で表します。

公式

真空中において、磁極 $m$ から $r$ 離れた地点の磁界の強さ $H$ を求める公式

$H=\displaystyle \frac{ 1 }{ 4πμ{ 0 } }\frac{ m}{ r^2}$[A/m]

$H$[N/Wb]または[A/m]:磁界の強さ
$m$[Wb]:磁極の強さ
$r$[m]:磁極からの距離

磁極により生じる磁界の強さ

  

理論電験3種
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