このページでは、三相同期電動機の始動方法について、初心者の方でも解りやすいように、基礎から解説しています。また、電験三種の機械科目で、実際に出題された三相同期電動機の始動方法の過去問題の解き方も解説しています。
始動法
図1(a)に示すように、回転子磁極が停止し、回転磁界が(N),(S)の状態になった瞬間を考えると、(S)とN,(N)とS間の吸引力によって、磁極は逆時計まわりのトルクを受けます。ところが、回転磁界は速く回りますが、回転子は慣性があるため、回転磁界に即応して回転できません。それで、たとえば、回転磁界が回転して(S)’,(N)’のようになった瞬間には、磁極は破線で示すように、時計まわりのトルクを受けます。このことから、回転子磁極が受ける平均のトルクは 0 となり、そのままでは始動できません。そこで始動のとき、次に示す方法で回転子を同期速度付近まで回転させる必要があります。
自己始動法
回転子の磁極面に、図1(b)に示す制動巻線を施すと、これは三相誘導電動機におけるかご形回転子と同じになります。この場合、全電圧を加えると始動電流が大きくなるので、電圧を適当に下げて、始動電流を抑制して始動します。図2は、始動補償器を用いた場合で、$S_3$ を1側に閉じて界磁巻線 $F$ を $r$ で短絡し、$S_2$ を始動側(ア)に閉じ、$S_1$ を閉じて固定子巻線に三相交流電流を加えて始動します。
回転子の回転速度が同期速度近くになったとき、$S_3$ を2側に切り換えて、界磁巻線の短絡を切り離し、直流電源で励磁すると、回転子は同期速度に引き込まれて、以後は同期速度で回転を続けます。そこで、$S_2$ を運転側(イ)に切り換え、全電圧を供給して運転状態にします。
始動電動機法
始動用電動機として、誘導電動機や直流電動機を用い、これを直結した三相同期電動機を無負荷で運転します。回転速度が同期速度近くになったとき、同期電動機の界磁巻線を励磁して、同期発電機として運転し、電源に並列に接続したのち、始動用電動機の電源を遮断して、同期電動機として運転します。
三相同期電動機の利用
三相同期電動機は、回転速度が同期速度で一定であり、力率をつねに1にすることも、任意の値にすることもできる利点があります。しかし、始動トルクが小さく、直流電源を必要とするなどの欠点もあります。これらの欠点はいろいろ工夫改善され、 この電動機の利点を生かして、同期調相機・各種圧縮機・製紙用砕木機・送風機・プロペラポンプなどに用いられています。
同期調相機
負荷と並列に三相同期電動機を接続して無負荷で運転します。負荷が誘導性の場合には、三相同期電動機の界磁を過励磁にして、必要な進み電流を流します。また、負荷が容量性の場合には、三相同期電動機の励磁を弱めることにより、必要な遅れ電流を流して、負荷の端子電圧を一定にします。このような目的で用いる三相同期電動機を同期調相機といいます。
同期調相機と同様の働きをするものとして、分路リアクトルや電力用コンデンサを負荷と並列に入れてもよく、リアクトルやコンデンサの容量を高速で制御する静止形無効電力補償装置もあります。
電験三種-機械(同期機)過去問
2005年(平成17年)問4
回転界磁形同期電動機が停止している状態で、固定子巻線に対称三相交流電圧を印加すると回転磁界が生じる。しかし、励磁された回転子磁極が受けるトルクは、同じ大きさで向きが交互に変わるので、その平均トルクは零になり電動機は起動しない。これを改善するために、回転子の磁極面に( ア )を施す。これは、( イ )と同じ起動原理を利用したもので、誘導トルクによって電動機を起動させる。
起動時には、回転磁束によって誘導される高電圧によって絶縁が破壊するおそれがあるので、( ウ )を抵抗で短絡して起動する。回転子の回転速度が同期速度に近づくと、この短絡を切り放し( エ )で励磁すると、回転は同期速度に引き込まれる。
上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ)及び(エ)に記入する語句として、正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | |
(1) | 補償巻線 | 巻線形誘導電動機 | 界磁巻線 | 交流 |
(2) | 制動巻線 | かご形誘導電動機 | 固定子巻線 | 直流 |
(3) | 制動巻線 | 巻線形誘導電動機 | 界磁巻線 | 交流 |
(4) | 制動巻線 | かご形誘導電動機 | 界磁巻線 | 直流 |
(5) | 補償巻線 | かご形誘導電動機 | 固定子巻線 | 直流 |
2005年(平成17年)問4 過去問解説
回転界磁形同期電動機が停止している状態で、固定子巻線に対称三相交流電圧を印加すると回転磁界が生じる。しかし、励磁された回転子磁極が受けるトルクは、同じ大きさで向きが交互に変わるので、その平均トルクは零になり電動機は起動しない。これを改善するために、回転子の磁極面に( 制動巻線 )を施す。これは、( かご形誘導電動機 )と同じ起動原理を利用したもので、誘導トルクによって電動機を起動させる。
起動時には、回転磁束によって誘導される高電圧によって絶縁が破壊するおそれがあるので、( 界磁巻線 )を抵抗で短絡して起動する。回転子の回転速度が同期速度に近づくと、この短絡を切り放し( 直流 )で励磁すると、回転は同期速度に引き込まれる。
答え (4)
2010年(平成22年)問5
三相同期電動機は、50[Hz]又は 60[Hz]の商用交流電源で駆動されることが一般的であった。電動機としては、極数と商用交流電源の周波数によって決まる一定速度の運転となること、( ア )電流を調整することで力率を調整することができ、三相誘導電動機比べて高い力率の運転ができることなどに特徴がある。さらに、誘導電動機に比べて( イ )を大きくできるという構造的な特徴などがあることから、回転子に強い衝撃が加わる鉄鋼圧延機などに用いられている。
しかし、商用交流電源で三相同期電動機を駆動する場合、( ウ )トルクを確保する必要がある。近年、インバータ などパワーエレクトロニクス装置の利用拡大によって可変電圧可変周波数の電源が容易に得られるようになった。出力の電圧と周波数がほぼ比例するパワーエレクトロニクス装置を使用すれば、( エ )を変えると( オ )が変わり、このときのトルクを確保することができる。
さらに、回転子の位置を検出して電機子電流と界磁電流をあわせて制御することによって幅広い速度範囲でトルク応答性の優れた運転も可能となり、応用範囲を拡大させている。
上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ),(エ)及び(オ)に当てはまる語句として、正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | (オ) | |
(1) | 励磁 | 固定子 | 過負荷 | 周波数 | 定格速度 |
(2) | 励磁 | 固定子 | 始動 | 電圧 | 定格速度 |
(3) | 電機子 | 空げき | 過負荷 | 電圧 | 定格速度 |
(4) | 電機子 | 固定子 | 始動 | 周波数 | 同期速度 |
(5) | 励磁 | 空げき | 始動 | 周波数 | 同期速度 |
2010年(平成22年)問5 過去問解説
三相同期電動機は、50[Hz]又は 60[Hz]の商用交流電源で駆動されることが一般的であった。電動機としては、極数と商用交流電源の周波数によって決まる一定速度の運転となること、( 励磁 )電流を調整することで力率を調整することができ、三相誘導電動機比べて高い力率の運転ができることなどに特徴がある。さらに、誘導電動機に比べて( 空げき )を大きくできるという構造的な特徴などがあることから、回転子に強い衝撃が加わる鉄鋼圧延機などに用いられている。
しかし、商用交流電源で三相同期電動機を駆動する場合、( 始動 )トルクを確保する必要がある。近年、インバータ などパワーエレクトロニクス装置の利用拡大によって可変電圧可変周波数の電源が容易に得られるようになった。出力の電圧と周波数がほぼ比例するパワーエレクトロニクス装置を使用すれば、( 周波数 )を変えると( 同期速度 )が変わり、このときのトルクを確保することができる。
さらに、回転子の位置を検出して電機子電流と界磁電流をあわせて制御することによって幅広い速度範囲でトルク応答性の優れた運転も可能となり、応用範囲を拡大させている。
答え (5)
2013年(平成25年)問5
次の文章は、一般的な三相同期電動機の始動方法に関する記述である。
同期電動機は始動のときに回転子を同期速度付近まで回転させる必要がある。
一つの方法として、回転子の磁極面に施した( ア )を利用して、始動トルクを発生させる方法があり、( ア )は誘導電動機のかご形( イ )と同じ働きをする。この方法を( ウ )法という。
この場合、( エ )に全電圧を直接加えると大きな始動電流が流れるので、始動補償器、直列リアクトル、始動用変圧器などを用い、低い電圧にして始動する。
他の方法には、誘導電動機や直流電動機を用い、これに直結した三相同期電動機を回転させ、回転子が同期速度付近になったとき同期電動機の界磁巻線を励磁し電源に接続する方法があり、これを( オ )法という。この方法は、主に大容量機に採用されている。
上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ),(エ)及び(オ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | (オ) | |
(1) | 制動巻線 | 回転子導体 | 自己始動 | 固定子巻線 | 始動電動機 |
(2) | 界磁巻線 | 回転子導体 | Y-Δ始動 | 固定子巻線 | 始動電動機 |
(3) | 制動巻線 | 固定子巻線 | Y-Δ始動 | 回転子導体 | 自己始動 |
(4) | 界磁巻線 | 固定子巻線 | 自己始動 | 回転子導体 | 始動電動機 |
(5) | 制動巻線 | 回転子導体 | Y-Δ始動 | 固定子巻線 | 自己始動 |
2013年(平成25年)問5 過去問解説
同期電動機は始動のときに回転子を同期速度付近まで回転させる必要がある。
一つの方法として、回転子の磁極面に施した( 制動巻線 )を利用して、始動トルクを発生させる方法があり、( 制動巻線 )は誘導電動機のかご形( 回転子導体 )と同じ働きをする。この方法を( 自己始動 )法という。
この場合、( 固定子巻線 )に全電圧を直接加えると大きな始動電流が流れるので、始動補償器、直列リアクトル、始動用変圧器などを用い、低い電圧にして始動する。
他の方法には、誘導電動機や直流電動機を用い、これに直結した三相同期電動機を回転させ、回転子が同期速度付近になったとき同期電動機の界磁巻線を励磁し電源に接続する方法があり、これを( 始動電動機 )法という。この方法は、主に大容量機に採用されている。
答え (1)