パワーエレクトロニクスと半導体デバイス

機械

このページでは、パワーエレクトロニクスと半導体デバイスについて、初心者の方でも解りやすいように、基礎から解説しています。また、電験三種の機械科目の試験で実際に出題された、パワーエレクトロニクスと半導体デバイスの過去問題も解説しています。

電力の変換方式

電気機械には、直流電力によって運転されるものや、交流電力によって運転されるものがあります。直流電動機は、電機子電圧を変えることによって、回転速度の制御やトルクの制御をすることができます。また、交流電動機は、交流電源の周波数などを変えることによって、回転速度を制御することができます。

最近の電気機械は、電力会社から供給される電力を半導体電力変換装置を用いて所要の電圧や周波数に変えて、効率よく可変速運転することができます。次の表は、電力変換方式とおもな変換装置を示したものです。

変換方式おもな変換装置利用例
順変換
(交流→直流)
整流装置電子機器・通信機器用電源
電気化学用電源装置
蓄電池充電器
電磁石励磁用電源装置
直流電気鉄道用電源装置
逆変換
(直流→交流)
インバータ無停電電源装置
定電圧-定周波電源装置
高周波誘導炉用電源装置
交流電動機用電源(可変速運転)
直流変換
(直流→直流)
直流チョッパ(直接変換式)
スイッチングレギュレータ(間接変換式)
直流電動機用電源装置(可変速運転)
電気鉄道直流電動機電源装置
電気自動車電源装置
電子機器・通信機器用電源
交流変換
(交流→交流)
周波数変換装置(直接変換式)
周波数変換装置(間接変換式)
交流電力調整装置
航空機定周波電源装置
交流電動機用電源装置(可変速運転)
電気炉
調光装置
周波数変換装置

パワーエレクトロニクスは、高耐圧・大電流容量の半導体デバイスのオンオフ動作を利用して電力を断続し、電力の変換と制御を行う技術です。このような使い方をする半導体デバイスを、半導体バルブデバイスといいます。その特徴として、微小な電気や光などの信号によって、高電圧・大電流を電気的にオン・オフすることができ、損失が少なく、 1秒間に数千回,数十万回と、きわめて速い動作を行うことができます。

半導体バルブデバイスとその性質

パワーエレクトロニクス装置に使われている半導体バルブデバイスには、整流ダイオード・サイリスタ・トランジスタなどがあります。

整流ダイオード

整流ダイオードは、交流を直流に変換する装置に使用されています。図1はシリコンの半導体を用いた電力用整流ダイオードを示したもので、図(a)の拡大部分は図(b)のようにpn接合をつくり、アノード・カソードの電極を設けています。図(c)はシリコンダイオードの図記号です。

電力用シリコンダイオード
図1 電力用シリコンダイオード

ダイオードは、アノードAからカソードKへの順方向の電圧を加えたときに電流が流れます。これをオン状態(導通)といいます。また、KからAへの逆方向の電圧を加えたときには電流がほとんど流れません。これをオフ状態(絶縁)といいます。

高耐圧・大電流の整流ダイオードとしては、6000V・4000A程度のものが製造されています。

サイリスタ

図2は、数多いサイリスタの中で最初に開発され、サイリスタの基本をなしている逆阻止3端子サイリスタ(pゲート)です。

逆阻止3端子サイリスタ
図2 逆阻止3端子サイリスタ

図(a)の拡大部分は図(b)のように、シリコシ半導体の pnpn の4層構造になっています。その一端のp形半導体にアノードAが、他端のn形半導体にカソードKが、その中間のp形半導体にゲートGの三つの端子がそれぞれ設けられています。図(c)はサイリスタの図記号です。

図3は、直流電源で動作するサイリスタの回路です。図に示すように、サイリスタThのアノードAとカソードKの間に電源電圧 $V$[V]を順方向に接続し、これにゲート制御電圧をゲートGに接続し、スイッチS1,S2は開いておきます。ここで、S1を閉じても、抵抗Rを通るアノード電流 $I_A$[A]はほとんど流れず、サイリスタはオフ状態になります。このとき、S2を閉じて、Gに正の電流 $I_G$[A]を流すとサイリスタには $I_A$ が流れ、オン状態になります。このように、サイリスタは $I_G$ を流すことによってオン状態になり、ひとたび $I_A$ が流れると、S2を開いても $I_A$ は流れ続けます。

サイリスタの回路
図3 サイリスタの回路

サイリスタをオフ状態にするには、S1を開いて $I_A$ を 0A にするか、電源電圧 $V$[V]を減少させて、オン状態が維持できないほどの値に $I_A$ を減らします。また、電源電圧 $V$ を逆に接続して、アノードAとカソードKの間にかかる電圧が逆になった場合は、ダイオードの逆方向と同じように、$I_A$ は流れず、オフ状態になります。

一般に、サイリスタがオフ状態からオン状態に移ることをターンオンといい、オン状態からオフ状態に移ることをターンオフといいます。

サイリスタの種類

サイリスタには、1方向のみ電流を流すもの、2方向に電流を流すもの、外部端子数では、 2,3,4端子のものがあります。また、電気のほか、光によるゲート信号によって動作する光トリガサイリスタがあります。おもなサイリスタの分類を次に示します。

サイリスタの種類

パワートランジスタ

電力用のパワートランジスタには、バイポーラトランジスタ,MOS形FET,IGBTなどがあります。 これらのトランジスタは、 スイッチング素子として用いられています。図4(a)において、スイッチSが開いているときはコレクタC,エミッタE間にはコレクタ電流 $I_C$[A]は流れず、オフ状態になっていまする。

スイッチSを閉じると、ベース電流 I_B$[A]が流れます。すると、コレクタ電流 $I_C$[A]が流れ、$I_B+I_C=I_E$[A]のエミッタ電流が流れます。このとき、$I_B$ を十分に大きくする、コレクタCの電位が下がり、コレクタとエミッタは短絡状態になって、オン状態になります。

バイポーラトランジスタ
図4 バイポーラトランジスタ

半導体バルブデバイスとして使用するパワートランジスタは、サージ電圧,オンオフ動作時の電力損失,ベース信号に対する動作の遅れ,動作に必要なベース電流の大きさ,扱い得る電圧・電流の範囲の大きさなどから、耐電圧・ターンオン時間・ターンオフ時間・飽和電圧電流増幅率、そして安全動作領域などが重要な要素になります。

図(b)のシングル形はターンオフ時間が速く、飽和電圧は低いが電流増幅率が小さく、動作するには大きなベース電流が必要です。図(c)のダーリントン接続形は飽和電圧は高く、ターンオフ時間が少し長くなりますが、電流増幅率は大きく、小さいベース電流で動作する特徴があります。

トランジスタは、サイリスタのような転流回路を必要としないなどの利点があり、高耐圧・大電流容量のものが製造されるに従って、サイリスタのかわりに使用されるようになっています。

また、MOS形FETはスイッチング動作が速く、ゲート電圧で駆動し、入カインピーダンスが高いなどの特徴があります。この点を生かして、高電圧・大電流容量化をはかった電力用のMOS形FETが製造され、高周波用の半導体バルブデバイスとして使用されています。

また、パワー半導体デバイスそのものの性能向上とあわせて、IC技術を用いて、複数の半導体バルブデバイスと電子部品を一つのパッケージに組み込んだパワーモジュールが製造され、広く用いられるようになっています。図5はトランジスタを用いたパワーモジュールの一例です。

トランジスタを用いたパワーモジュールの例
図5 トランジスタを用いたパワーモジュールの例

パワートランジスタでは、定格耐電圧が1400V・800A程度のものが、MOS形FETでは500V・50A,1000V・8A程度のものが製造されています。

なお、最近はMOS形FETとバイポーラトランジスタの長所を生かした絶縁バイポーラトランジスタ(IGBT)が開発されています。IGBTはMOS形FETと同じ絶縁ゲートによる電圧制御形のデバイスで、高速スイッチングができ、高耐圧という特長があります。図6(a)にIGBTの等価回路、図(b)に図記号を示します。

絶縁バイポーラトランジスタ
図6 絶縁バイポーラトランジスタ

  

電験三種-機械(パワーエレクトロニクス)過去問

1998年(平成10年)問5

電力用半導体素子(半導体バルブデバイス)に関する次の記述のうち、誤っているのはどれか。

  1. 逆阻止三端子サイリスタは、ゲート信号によりターンオンできるが、自己消弧能力はない。
  2. ゲートターンオフサイリスタ(GTO)は、ゲート信号によりオン及びオフできる素子である。
  3. 光トリガサイリスタは、光でオン及びオフできるサイリスタである。
  4. ダイオードは、方向性を持つ素子で、交流を直流に変換できる。
  5. トライアックは、二方向性サイリスタである。

1998年(平成10年)問5 過去問解説

  1. 正:逆阻止三端子サイリスタは、ゲート信号によりターンオンできるが、自己消弧能力はありません。
  2. 正:ゲートターンオフサイリスタ(GTO)は、ゲート信号によりオン及びオフできる素子です。
  3. 誤:光トリガサイリスタは、直流送電等の大電力用に用いられ、光の照射によってトリガ(点弧)のみを行うことが出来ます。
  4. 正:ダイオードは、方向性を持つ素子で、交流を直流に変換できます。
  5. 正:トライアックは、二方向性サイリスタです。

答え (3)

2004年(平成16年)問10

パワーエレクトロニクスのスイッチング素子として、逆阻止3端子サイリスタは、素子のカソード端子に対し、アノード端子に加わる電圧が( ア )のとき、ゲートに電流を注入するとターンオンする。同様に、npn形のバイポーラトランジスタでは、素子のエミッタ端子に対し、コレクタ端子に加わる電圧が( イ )のとき、ベースに電流を注入するとターンオンする。
なお、オンしている状態をターンオフさせる機能がある素子は( ウ )である。

上記の記述中の空白箇所(ア),(イ)及び(ウ)に記入する語句として、正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。

 (ア)(イ)(ウ)
(1)npn形バイポーラトランジスタ
(2)逆阻止3端子サイリスタ
(3)逆阻止3端子サイリスタ
(4)逆阻止3端子サイリスタ
(5)npn形バイポーラトランジスタ

2004年(平成16年)問10 過去問解説

パワーエレクトロニクスのスイッチング素子として、逆阻止3端子サイリスタは、素子のカソード端子に対し、アノード端子に加わる電圧が(  正  )のとき、ゲートに電流を注入するとターンオンする。同様に、npn形のバイポーラトランジスタでは、素子のエミッタ端子に対し、コレクタ端子に加わる電圧が( 正 )のとき、ベースに電流を注入するとターンオンする。
なお、オンしている状態をターンオフさせる機能がある素子は( npn形バイポーラトランジスタ )である。

npn形バイポーラトランジスタは、正のベース電流 $I_B$ を流すと、C-E間がオンします。また、$I_B$ を 0 にすれば、ターンオフします。

2004年(平成16年)問10 過去問解説

答え (1)

2008年(平成20年)問9

電力用半導体素子(半導体バルブデバイス)である IGBT (絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)に関する記述として、正しいのは次のうちどれか。

  1. ターンオフ時の駆動ゲート電力が GTO に比べて大きい。
  2. 自己消弧能力がない。
  3. MOS 構造のゲートとバイポーラトランジスタとを組み合わせた構造をしている。
  4. MOS 形FET パワートランジスタより高速でスイッチングできる。
  5. 他の大電力用半導体に比べて、並列接続して使用することが困難な素子である。

2008年(平成20年)問9 過去問解説

  1. 誤:IGBT はMOSゲートで オン・オフ ができますので、駆動ゲート電力が GTO に比べて小さくなります。
  2. 誤:IGBT は自己消弧が可能で可能です。
  3. 正:MOS 構造のゲートとバイポーラトランジスタとを組み合わせた構造をしています。
  4. 誤:IGBT の駆動ゲートは、MOS 形FET です。スイッチング速度は、MOS 形FETパワートランジスタと同等です。
  5. 誤:IGBT は、並列接続して使用することができます。

答え (3)

2011年(平成23年)問10

半導体電力変換装置では、整流ダイオード,サイリスタ,パワートランジスタ(バイポーラパワートランジスタ),パワーMOSFET,IGBT などのパワー半導体デバイスがバルブデバイスとして用いられている。バルブデバイスに関する記述として、誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

  1. 整流ダイオードは、n 形半導体と p 形半導体とによる pn接合で整流を行う。
  2. 逆阻止三端子サイリスタは、ターンオンだけが制御可能なバルブデバイスである。
  3. パワートランジスタは、遮断領域と能動領域とを切り換えて電力スイッチとして使用される。
  4. パワーMOSFET は、主に電圧が低い変換装置において高い周波数でスイッチングする用途に用いられる。
  5. IGBT は、バイポーラと MOSFET との複合機能デバイスであり、それぞれの長所を併せもつ。

2011年(平成23年)問10 過去問解説

  1. 正:整流ダイオードは、n 形半導体と p 形半導体とによる pn接合で整流を行います。
  2. 正:逆阻止三端子サイリスタは、ターンオンだけが制御可能なバルブデバイスです。
  3. 誤:パワートランジスタは、遮断領域と飽和領域とを切り換えて電力スイッチとして使用されます。
  4. 正:パワーMOSFET は、主に電圧が低い変換装置において高い周波数でスイッチングする用途に用いられます。
  5. 正: IGBT は、バイポーラと MOSFET との複合機能デバイスであり、それぞれの長所を併せもちます。
2011年(平成23年)問10 過去問解説

答え (3)

2012年(平成24年)問13

図は演算増幅器を使った回路である。入力電圧 V1[V]に対する出力電圧 V2[V]の比の値として、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
ただし、演算増幅器は理想的(入力インピーダンスは無限大、増幅度は無限大、出力インピーダンスは零)であるとし、入力電圧、出力電圧ともに演算増幅器の動作範囲内であるとする。

(1) -12 (2) -10 (3) 10 (4) 12 (5) 13

2012年(平成24年)問13 過去問解説

入力インピーダンスが無限大ですので、入力端子に電流は流れません。つまり、R1 を流れる電流と R2 に流れる電流は等しくなります。回路に流れる電流を $I$ とすれば、

$I=\displaystyle\frac{V_1}{R_1}=\displaystyle\frac{V_1}{10}$

$V_2=R_2I+V_1=120I+V_1$
 $=120×\displaystyle\frac{V_1}{10}+V_1=13V_1$

答え (5)

2017年(平成29年)問10

電力変換装置では、各種のパワー半導体デバイスが使用されている。パワー半導体デバイスの定常的な動作に関する記述として、誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

  1. ダイオードの導通、非導通は、そのダイオードに印加される電圧の極性で決まり、導通時は回路電圧と負荷などで決まる順電流が流れる。
  2. サイリスタは、オンのゲート電流が与えられて順方向の電流が流れている状態であれば、その後にゲート電流を取り去っても、順方向の電流に続く逆方向の電流を流すことができる。
  3. オフしているパワーMOSFETは、ボディーダイオードを内蔵しているのでオンのゲート電圧が与えられなくても逆電圧が印加されれば逆方向の電流が流れる。
  4. オフしているIGBTは、順電圧が印加されていてオンのゲート電圧を与えると順電流を流すことができ、その状態からゲート電圧を取り去ると非導通となる。
  5. IGBTと逆並列ダイオードを組み合わせたパワー半導体デバイスは、IGBTにとって順方向の電流を流すことができる期間をIGBTのオンのゲート電圧を与えることで決めることができる。IGBTにとって逆方向の電圧が印加されると、IGBTのゲート状態にかかわらずIGBTにとって逆方向の電流が逆並列ダイオードに流れる。

2017年(平成29年)問10 過去問解説

  1. 正:ダイオードの導通、非導通は、そのダイオードに印加される電圧の極性で決まり、導通時は回路電圧と負荷などで決まる順電流が流れます。
  2. 誤:サイリスタは,順方向電圧が加えられている時に,ゲート電流を流せば順方向電流が流れます(ターンオン)。しかし、ゲート電流を取り除いても電流は流れ続けます。逆方向に流れることはありません。
  3. 正:オフしているパワーMOSFETは、ボディーダイオードを内蔵しているのでオンのゲート電圧が与えられなくても逆電圧が印加されれば逆方向の電流が流れます。
  4. 正:オフしているIGBTは、順電圧が印加されていてオンのゲート電圧を与えると順電流を流すことができ、その状態からゲート電圧を取り去ると非導通となります。
  5. 正:IGBTと逆並列ダイオードを組み合わせたパワー半導体デバイスは、IGBTにとって順方向の電流を流すことができる期間をIGBTのオンのゲート電圧を与えることで決めることができます。IGBTにとって逆方向の電圧が印加されると、IGBTのゲート状態にかかわらずIGBTにとって逆方向の電流が逆並列ダイオードに流れます。

答え (2)

機械電験3種
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