このページでは、ケーブルの静電容量と線路定数について、初心者の方でも解りやすいように、基礎から解説しています。また、電験三種の電力科目の試験で、実際に出題されたケーブルの静電容量と線路定数の過去問題も解説しています。
静電容量測定法
静電容量測定法は、ケーブルの静電容量と長さが比例することを利用し、健全相と故障相のケーブルの静電容量をそれぞれ測定することで故障点を標定する方法です。静電容量測定法は断線事故時の測定に使われます。
事故相の静電容量を CX 、健全相の静電容量を C とするとき、事故点までの距離 x は次の式で求めることができます。
$x=L\displaystyle \frac{ C_X }{ C }$[m]
L:健全相のケーブル長[m]
ケーブルの作用静電容量
3心のケーブル各導体間の静電容量を Cm 、各導体と対地間の静電容量を Cs とすると図(a)のように表すことができます。鉛被の電位は 0 電位で等しいので、図(b)のように表わされます。
導体の仮想中性点の電位と鉛被の電位は0電位で等しいので、線間静電容量 Cm を△→Y変換すると、図(c)のように 3Cm と対地静電容量 CS は並列になり、1線当たりの静電容量は次の式で求めることができます。
$C_n=3C_m+C_S$
$C_n$:1線当たりの静電容量[F]
と表わすことができます。この Cn を作用静電容量(1線当たりの静電容量)といいます。一般的に、三相電力ケーブルの作用静電容量は、図(d)の等価回路で表されます。
ここで、相電圧を E[V]線間電圧を V[V]、1線当たりのケーブルの充電電流を IC[A] とすると、次の関係式が成り立ちます。
$E=\displaystyle \frac{ I_C }{ ωC_n }$[V]
$\begin{eqnarray}I_C&=&ωC_nE\\\\&=&ωC_n\displaystyle \frac{ V }{ \sqrt{ 3 } }\\\\&=&2πfC_n\displaystyle \frac{ V }{ \sqrt{ 3 } }[A]\end{eqnarray}$
この電線全体のコンデンサ分に充電される電力は、無効電力として表すことができます。電力のベクトル図は、次のとおりになります。
電線全体の充電容量 QC は次の式で求めることができます。
$\begin{eqnarray}Q_C&=&\sqrt{ 3 }VI_C\\\\&=&\sqrt{ 3 }V×2πfC_n\displaystyle \frac{ V }{ \sqrt{ 3 } }\\\\&=&2πfC_nV^2[var]\end{eqnarray}$
送電線の線路定数
送電線の抵抗 R、作用インダクタンス L、作用静電容量 C 及び漏れコンダクタンス(リーカンス) g は、線路定数といいます。
線路定数は、電線の種類、電線の太さ、電線の構造、電線の幾何学的配置などによって定まる値であって、送電電圧、電流、力率、気象条件などによって線路定数の値が左右されることはなく、常に一定となります。
送電線の抵抗 R[Ω]は、その導体の抵抗率を ρ[Ω⋅m]、長さを L[m]、断面積を S[m2]とすると、次の式で求めることができます。
$R=ρ\displaystyle \frac{ L }{ S }$[Ω]
単位長あたりの3線分のインダクタンス L3n[mH/km]は、電線の半径を r[m]、長さを L[m]、導体の比透磁率を μs とすると、次の式で求めることができます。
$L_{3n}=0.05μs+0.4605\log_{ 10 }\displaystyle \frac{ D }{ r }$[mH/km]
単位長あたりの3線分の静電容量 C3n[μF/km]は、電線の半径を r[m]、長さを L[m]、導体の比誘電率を εs とすると、次の式で求めることができます。
$C_{3n}=\displaystyle \frac{ 0.02413 εs}{ log_{ 10 } \displaystyle \frac{ D }{ r }}$[μF/km]
1線の漏れコンダクタンスを g[S/km]、対地静電容量を C[F/km]、周波数を f[Hz]とすると、並列アドミタンス y[S/km]は、次の式で求めることができます。
$y=g+j2πfC$[S/km]
誘電体損
ケーブルやコンデンサの充電回路の等価回路は図のようになります。
このとき、
$\displaystyle \frac{ I_r }{ I_C }=\displaystyle \frac{ 1 }{ ωCR }=tanδ$
$ I_r =I_Ctanδ$
の式が成り立ちます。この tanδ は誘電正接といい、δ(読み:デルタ)を誘電損角といいます。
誘電体に交流電界を加えたとき、誘電体内で電力の損失が起こります。これを誘電体損といいます。誘電体に交流電圧を加えたとき、電流は 90°より誘電損角 δ だけ小さくなります。ケーブルの作用静電容量を Cn[F/km]、相電圧を E[V]とすると、1相あたりの誘電体損 Wd[W]は、次の式で求めることができます。
$\begin{eqnarray}W_d&=&EI_r=E×I_Ctanδ\\\\&=&E×ωC_nEtanδ\\\\&=&2πfC_nE^2tanδ[W]\end{eqnarray}$
誘電損はケーブルの発熱となり、許容電流を低下させます。尚、使用電圧11[kV]以下のケーブルでは通常、誘電損は考慮しません。
電験三種-電力(送配電)過去問題
1997年(平成9年)問8
電力ケーブルの1線断線事故の故障点までの距離を静電容量法で求める場合、健全相の静電容量が C、故障点までの静電容量が Cx、ケーブルのこう長が L のとき、故障点までの距離を表す式として、正しいのは次のうちどれか。
(1) $\displaystyle\frac{C_x}{C}L$ (2) $\displaystyle\frac{C}{C_x}L$ (3) $\displaystyle\frac{C・C_X}{L}$ (4) $\displaystyle\frac{L}{C・C_X}$ (5) $C・C_X・L$
1997年(平成9年)問8 過去問解説
事故相の静電容量を CX 、健全相の静電容量を C とするとき、事故点までの距離 x は
$x=L\displaystyle \frac{ C_X }{ C }$[m]
答え (1)
2003年(平成15年)問11
電圧 22[kV]、周波数 50[Hz]、こう長 1[km]の三相3線式地中電線路がある。ケーブルの心線1線当たりの静電容量が 0.44[μF/km]であるとき、この電線路の無負荷充電容量[kvar]の値として、最も近いのは次のうちどれか。
(1) 11 (2) 18 (3) 39 (4) 67 (5) 116
2003年(平成15年)問11 過去問解説
無負荷充電容量 QC とすると
$\begin{eqnarray}Q_C&=&2πfC_nV^2\\&=&2×3.14×50×0.44×10^{-6}×(22×10^3)^2\\&≒&66869[var]\end{eqnarray}$
答え (4)
2005年(平成17年)問8
架空送電線路の線路定数には、抵抗 R、作用インダクタンス L、作用静電容量 C 及び漏れコンダクタンス G がある。このうち、G は実用上無視できるほど小さい場合が多い。 R の値は電線断面積が大きくなると小さくなり、温度が高くなれば( ア )なる。また、一般に電線の交流抵抗値は直流抵抗値より( イ )なる。L と C は等価線間距離 D と電線半径 r の比( D/r )により大きく影響される。比( D/r )の値が大きくなれば、 L の値は( ウ )なり、C の値は( エ )なる。
上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ)及び(エ)に記入する語句として、正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | |
(1) | 大きく | 大きく | 大きく | 小さく |
(2) | 大きく | 小さく | 大きく | 大きく |
(3) | 小さく | 大きく | 小さく | 小さく |
(4) | 小さく | 大きく | 大きく | 小さく |
(5) | 大きく | 大きく | 小さく | 大きく |
2005年(平成17年)問8 過去問解説
電線の抵抗 R は断面積に反比例し、温度に比例します。また、交流による表皮効果により直流抵抗より交流抵抗の方が大きくなります。
作用インダクタンス L、作用静電容量 C は、
$L=0.05μs+0.4605\log_{ 10 }\displaystyle \frac{ D }{ r }$[mH/km]
$C=\displaystyle \frac{ 0.02413 εs}{ log_{ 10 } \displaystyle \frac{ D }{ r }}$[μF/km]
で求めることができます。D/r が大きくなることは L は増加、C は減少します。
答え (1)
2009年(平成21年)問11
電圧 33[kV]、周波数 60[Hz]、こう長 2[km]の交流三相3線式地中配電線路がある。 ケーブルの心線一線あたりの静電容量が 0.24[μF/km]、誘電正接 0.03[%]であるとき、このケーブルの心線3線合計の誘電体損[W]の値として、最も近いのは次のうちどれか。
(1) 9.4 (2) 19.7 (3) 29.5 (4) 59.1 (5) 177
2009年(平成21年)問11 過去問解説
単位長あたりの作用静電容量を Cn[F/km]、相電圧を E[V]とすると、1相あたりの誘電体損 Wd[W/km]は、
$\begin{eqnarray}W_d&=&2πfC_nE^2tanδ\\\\&=&2π×60×0.24×10^{-6}×\left(\displaystyle \frac{ 33×10^3 }{ \sqrt{ 3 } }\right)^2×\displaystyle \frac{ 0.03 }{ 100 }\\\\&=&9.85[W/km]\end{eqnarray}$
こう長 2[km]で 3相分の誘電体損は、
$9.85×2×3=59.1$[W]
答え (4)
2012年(平成24年)問11
電圧 6.6 [kV] 、周波数 50 [Hz] 、こう長 1.5 [km] の交流三相3線式地中電線路がある。ケーブルの心線1線当たりの静電容量を 0.35 [μF/km] とするとき、このケーブルの心線3線を充電するために必要な容量 [kV・A] の値として、最も近いものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(1) 4.2 (2) 4.8 (3) 7.2 (4) 12 (5) 37
2012年(平成24年)問11 過去問解説
充電容量 QC とすると
$\begin{eqnarray}Q_C&=&2πfC_nV^2\\\\&=&2×3.14×50×0.35×10^{-6}×1.5×(6.6×10^3)^2 \\\\&=& 7180[V・A] \end{eqnarray}$
答え (3)
2015年(平成27年)問10
電圧 66kV、周波数 50Hz、こう長 5kmの交流三相3線式地中電線路がある。ケーブルの心線1線当たりの静電容量が 0.43μF/km、誘電正接が 0.03%であるとき、このケーブル心線3線合計の誘電体損の値 [W] として、最も近いものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(1) 141 (2) 294 (3) 883 (4) 1324 (5) 2648
2015年(平成27年)問10 過去問解説
単位長あたりの作用静電容量を Cn[F/km]、相電圧を E[V]とすると、1相あたりの誘電体損 Wd[W/km]は、
$\begin{eqnarray}W_d&=&2πfC_nE^2tanδ\\\\&=&2π×50×0.43×10^{-6}×\left(\displaystyle \frac{ 66×10^3 }{ \sqrt{ 3 } }\right)^2×\displaystyle \frac{ 0.03 }{ 100 }\\\\&=&58.84[W/km]\end{eqnarray}$
こう長 5[km]で 3相分の誘電体損は、
$58.84×5×3=882.6$[W]
答え (3)
2017年(平成29年)問16
図に示すように、対地静電容量 Ce[F]、線間静電容量 Cm[F]からなる定格電圧 E[V]の三相1回線のケーブルがある。
今、受電端を開放した状態で、送電端で三つの心線を一括してこれと大地間に定格電圧 E[V]の $\displaystyle \frac{ 1}{ \sqrt{ 3 } }$ 倍の交流電圧を加えて充電すると全充電電流は 90Aであった。
次に、二つの心線の受電端・送電端を接地し、受電端を開放した残りの心線と大地間に定格電圧 E[V]の $\displaystyle \frac{ 1}{ \sqrt{ 3 } }$ 倍の交流電圧を送電端に加えて充電するとこの心線に流れる充電電流は 45Aであった。
次の(a)及び(b)の問に答えよ。
ただし、ケーブルの鉛被は接地されているとする。また、各心線の抵抗とインダクタンスは無視するものとする。なお、定格電圧及び交流電圧の周波数は、一定の商用周波数とする。
(a) 対地静電容量 Ce[F]と線間静電容量 Cm[F]の比 $\displaystyle \frac{ Ce}{ Cm }$ として、最も近いものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(1) 0.5 (2) 1.0 (3) 1.5 (4) 2.0 (5) 4.0
(b) このケーブルの受電端を全て開放して定格の三相電圧を送電端に加えたときに 1線に流れる充電電流の値 [A]として、最も近いものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(1) 52.5 (2) 75 (3) 105 (4) 120 (5) 135
2017年(平成29年)問16 過去問解説
(a) 3心のケーブル各導体間の静電容量を Cm 、各導体と対地間の静電容量を Ce とすると次の図のように表すことができます。
1線当たりの静電容量 Cn は次の式で求めることができます。
$Cn=3Cm+Ce$
$Cn$:1線当たりの静電容量[F]
三つの心線を一括した場合は、心線間は等電位となり、各導体間の静電容量 Cm はゼロになります。
大地間に定格電圧 E[V]の $\displaystyle \frac{ 1}{ \sqrt{ 3 } }$ 倍の交流電圧を加えて充電したときの全充電電流を IC1[A]とすると、
$I_{C1}=ωCe×3×\displaystyle \frac{ E}{ \sqrt{ 3 } }=\sqrt{ 3 }ωCeE=90$[A]
$Ce=\displaystyle \frac{30\sqrt{ 3 } }{ ωE }$
二つの心線の受電端・送電端を接地し、受電端を開放した残りの心線に交流電圧を加えた場合、電位が 0 となった各導体間の対地静電容量 Ce と静電容量 Cm はゼロになります。
大地間に定格電圧 E[V]の $\displaystyle \frac{ 1}{ \sqrt{ 3 } }$ 倍の交流電圧を加えて充電したときの全充電電流を IC2[A]とすると、
$I_{C2}=ω(Ce+2Cm)×\displaystyle \frac{ E}{ \sqrt{ 3 } }=45$[A]
$Ce+2Cm=\displaystyle \frac{ 45\sqrt{ 3 } }{ ωE}$
$\displaystyle \frac{30\sqrt{ 3 } }{ ωE }+2Cm=\displaystyle \frac{ 45\sqrt{ 3 } }{ ωE}$
$Cm=\displaystyle \frac{ 15\sqrt{ 3 } }{ 2ωE}$
よって、$\displaystyle \frac{ Ce}{ Cm }$ は、
$\displaystyle \frac{ \displaystyle \frac{30\sqrt{ 3 } }{ ωE }}{ \displaystyle \frac{ 15\sqrt{ 3 } }{ 2ωE} }=4$
答え (5)
(b) 1線当たりの静電容量 Cn は、
$Cn=3Cm+Ce$
$Cn=3Cm+4Cm=7Cm={ \displaystyle \frac{ 105\sqrt{ 3 } }{ 2ωE} }$
充電電流を IC[A]とすると、
$I_C=ωC_nE=ωE×{ \displaystyle \frac{ 105\sqrt{ 3 } }{ 2ωE} }=52.5$[A]
答え (1)