これだけは知っておきたい電気計測の基礎知識をご紹介します。電力会社から送電される電力は,日頃はその周波数にあまり関心を持ちませんが,電動機,変圧器,蛍光灯の灯具などは電源の周波数に対応した機器を使わなければなりません。このページでは「周波数計の原理と周波数の測定方法」について、維持管理や保全などを行う電気技術者の方が、知っておくとためになる電気計測の基礎知識を解説しています。
周波数測定の必要性
ラジオの音声やテレビの画像と音声は,電波で送られてきます。希望する放送を受信するには,その周波数に共振する同調回路で特定の電波を取り出します。パソコンやプログラマブルコントローラのCPUもそれぞれの機器で決められているクロック周波数で演算をしています。発振回路を内蔵している機器やパルス回路などでも周波数の測定が必要でしよう。
最近では,電動機の速度制御にインバータを使う例が多くなってきていますが,このような機器では周波数測定の可能性があるでしょう。これらのことから,電圧や電流に比べて,測定頻度は少ないのですが電気設備の保全に周波数の測定は必要です。そこで,周波数を正しく知るための周波数計が必要になるのです。一口に周波数の測定といっても,商用周波数のように50~ 60〔Hz〕程度のものから,衛星放送の電波のように10〔GHz〕を超えるものまであり,それぞれの測定周波数によって測定機器や注意事項もいろいろ異なってきます。
低い周波数の測定は,比較的簡単ですが,テレビ放送の電波のように高い周波数では,測定が困難で高価な測定装置が必要です。高い周波数は実際の職場で測定の必要性が低いので,ここでは,比較的低い周波数の測定について見ていきます。
周波数計の種類
ディジタル周波数計
周波数計としてもっとも多く使用されているものが,ディジタル周波数計であるといっても差し支えないでしょう。この計器は,周波数の測定値が数字で表示されるとともに,他の種類よりも広い測定範囲を持っているのが特徴です。図1は,デイジタル周波数計の測定原理を表しています。
この計器の構造は,可動コイル形の一種ですから,外観的には可動コイル形の電圧計や電流計などによく似た形をしています。図2は,比率計形周波数計の動作原理です。一般的な可動コイル形の計器は,コイルが一つですが,このタイプの計器にはコイルが二つあり,それぞれのコイルに対して直列LC回路が組み込んであります。
LC直列回路のインピーダンスは,共振周波数でもっとも低くなりますから共振周波数では,コイルに流れる電流が最大になります。そこで,50〔Hz〕の測定をする周波数計であれば,図のように,Mlの共振周波数を42〔Hz〕に,M2の共振周波数を58〔Hz〕にしておきます。
入力電圧が50〔Hz〕のときに計器の指針が中央を指すようにしておきますと,入力電圧が50〔Hz〕よりも低い周波数であればMlに流れる電流がM2に流れる電流よりも大きくなりますから,左佃1のコイルとMlコイルの間に働く力が,右側のコイルとM2コイルに働く力よりも大きくなりますから,指針は左側に振れます。同様に,50〔Hz〕よりも高い周波数であれば,指針は右佃1に振れるのです。もし,60〔Hz〕を沢1定したいのであればMlとM2コイルの共振周波数を60〔Hz〕より少し低い周波数と高い周波数にします。このことからわかるように,測定できる範囲は狭くなっています。
振動片形周波数計
振動片形周波数計は,多数の金属性の振動片を内蔵した計器です。それぞれの振動片は,固有の周波数で共振するように作られており,測定入力の周波数に対応した振動片の共振で,周波数を知ることができます。振動片の共振周波数を0.1〔Hz〕の間隔で配列しますと,周波数を0.1〔Hz〕間隔で知ることができます。この動作原理からわかるように,測定範囲が狭く,固定されていますので,商用周波数の測定に使います。
この計器は,指針もディジタル表示もありませんから,他の計器とはかなり異なっているといえるでしょう。
吸収形周波数計
LC直列回路と可動コイル形電流計を組み合わせています。 LC直列回路に流れる電流は,共振周波数で最大になります。吸収形周波数計の共振回路は,コイルと可変コンデンサ(バリコン)で構成しており,バリコンでキャパシタンスを変化させ,電流が最大値を示すときのキャパシタンスとコイルのインダクタンスから周波数を知るのです。吸収形周波数計の入力は,直接回路に接続するのではなく,回路から出てくる電磁波をコイルに入れて測定します。電波を吸収して周波数を測定することになります。
このタイプの周波数計は,コイルを交換してインダクタンスを変えると,比較的幅広い周波数を測定することができます。しかし,電波を吸収して測定するのですから,電波として空中に飛び出すような,ある程度高い周波数しか測れません。また,共振周波数を計算する式は,
ですから,バリコンでキャパシタンスがわかったとしても,周波数を計算するのは,かなり面倒です。そこで,コイルごとにバリコンの値と周波数の関係を示すグラフから周波数を読み取ることになります。
電流の最大値を求める際の誤差やグラフから周波数を読み取るときの誤差などが大きく,あまり正確な測定はできませんから,現在ではあまり使わなくなってきましたが,以前は|,小形軽量,安価で,構造が極めて簡単で壊れにくいことから,よく使われていました。
商用電源の周波数は,非常に安定していますから,単に確認する程度で大文夫です。もし,測定する必要があれば,電力の供給を受ける場所(企業内の変電所,配電‐盤など)に周波数計を設置します。周波数計としては,測定できる周波数計の測定範囲は狭いもので十分ですから,比率計形周波数計や振動片形周波数計などがよく使われます。
オシロスコープ
オシロスコープでは,波形を観察することができます。時間的に変化しない直流(平流)を大きさだけがわかればよい二次元の世界であるとすれば,時間的に変化する直流や交流は時間的に変化する二次元の世界であるといえるでしょう。
このようにいいますと,交流は実効値という一次元の値で示せるのではないかという人もいるでしようが,これは,大きさを表しているだけで,波形,周波数などを表わす情報が抜けているのです。交流の情報すべてを一次元で表すことはできないのです。
電圧測定
図3の波形Aは,振幅が4DIV(目盛) ですから,最大値は2DIVです。 垂直感度が5〔V/DIV〕で,プローブが10: 1なら,最大値Vmと実効値Vは、
周波数の測定
図3の波形Aは,周期が,9DIV(目盛)です。掃引速度が2〔ms/DIV〕であれば,周期T〔s〕と周波数f〔Hz〕は
なお,ディジタルオシロスコープには,Vp_p,実効値,周期,周波数などを自動的に計算して表示するものもあります。
電圧、周波数測定上の注意事項
- 一般的なプローブは,10:1の減衰比率になっていますが,これ以外のものも使いますから,測定時に必ずプローブの仕様確認が必要です。
- 垂直感度,掃引速度は,いずれもつまみで可変できます。可変つまみ(VALIABLEつまみ)は基準位置に戻して指定どおりの表示がされるようにしてから測定してください。
- オシロスコープは,つまみが30程度あり,その取扱いは複雑です。取扱説明書を読むだけではなかなか理解できません。参考書や取扱説明書を見て実際に使ってみることが必要です。
オシロスコープによる位相差の観測
図3は,オシロスコープによる位相観測です。二現象オシロスコープには二つの入力端子があり,異なる二つの波形を同時に画面上に表示させることができます。位相がずれているA波形とB波形を図3(a)のようにそれぞれの入力端子に加えますと,図3(b)のようなA波形とB波形を表示することができます。
波形Aと波形Bは周波数が同じ交流ですが,図(b)のように位相差t〔s〕があります。オシロスコープで観測するのは時間差ですから,周期がT〔s〕であれば,位相差θは,次の式で計算できます。
この方法の他に位相を観測する方法として,図4のようなリサジュー図形による位相観測法があります。
通常,オシロスコープは縦軸(Y軸)に入力信号を加え,横軸(X軸)は設定された時間で掃引されています。この方法が通常の使用法と異なるのは,横軸にも入力信号を入れて使うことです。
AとBの周波数が同じで,位相差がないときはAとBの値が同じですから,図形はy=χ のグラフになります。AとBに位相差がある場合や周波数が2倍や3倍のときの図形は図5を参考にしてください。
この方法は,正確な位相差を測定できませんから,位相差測定の目的としては,それほど有効ではありませんから,あまり使われません。ただ,周波数や位相差を適当に選ぶと,非常に図5のようなおもしろい図形が描けますから,その点では利用価値があるかも知れません。
ディジタル回路の数値は,パルスの有無で異なる数値を決めています。この場合,波形や位相差を観測するだけではなく,パルスのタイミング観測も必要ですが,二現象以上のオシロスコープでは,同時に複数の波形を表示することができますから,このような目的にも使えます。ただ,通常のオシロスコープでは,使い勝手の悪いこともありますから,ロジックアナライザーという論理回路に使いやすい機器もあります。