電気計器にはいろいろな種類があります。当然ながら、誤った計器を使用すると正しい測定はできません。このページでは、初心者の方でもわかりやすいように、計測器の基礎知識についてやさしく解説しています。
計器の目盛板
図はアナログ(指針)計器の例です。目盛板には、日盛の他に、直流用・交流用などの区分、日盛の単位、計器の置き方(姿勢)、確度の階級記号など多くの情報が表示されています。
測定量
どのような量を測定する機器なのかを記号で表示しています。 図の例では、日盛板にVと表示されていますから電圧計です。電流計はAといったように、目盛板には、測定できる項目の単位記号が表示されています。
目盛の単位
目盛板の数値の単位を表しています。 図の例では、電圧計で測定値の最大は150ですから、150〔V〕まで測定できます。目盛に表示された数値に、この単位をかけた値が測定値になります。また、指針が目盛の30を指していて単位がmAなら、測定値は30〔mA〕ということになります。
なお、テスタのように電圧、電流、抵抗値など複数項目の量を測定できる計器では,日盛板には表示しないで、切替え部(ロータリースイッチや押しボタンスイッチなど)に表示されているのが一般的です。
動作原理を表す記号
アナログ方式の電気計器の分類を一覧表にしたものを示します。
もっとも多く使われるのは永久磁石可動コイル形(可動線輪形)です。一般的な電圧計や電流計として使われる他にアナログテスタにも使われます。この計器の特徴は、指針の振れと測定値が比例していることです。この性質から、日盛が等間隔になりますから、テスタのようにいろいろな種類の測定をするのに適しています。欠点としては、直流には使えますが、交流には使えないことです。このため、交流を測定するためには整流器(ダイオード)を組み合わせて整流出力(直流)を測定します。
可動鉄片形は、送電・変電装置などでよく使われます。この計器の特徴は、交流、直流のいずれでも使用可能なのですが、指針の振れが原理的には、電流の2乗に比例するため等間隔ではないことです。目盛の間隔は、小さな値では狭く、フルスケール(読取り最大値)近辺では広くなることです。したがって、送電電圧のように、ほぼ一定の値を計測する場合には適しています。
使用回路区別記号
次の表は、直流用や交流用などの区分を表す記号です。
置き方による位置(姿勢)記号
次の表は、測定器を測定時にどのような姿勢にするのかを表す記号です。指定のない計器もありますが、アナログ方式の精密な計器では指定があるのが一般的です。
水平の記号は、計器を水平にしなければなりません。鉛直であれば計器を立てた状態(鉛直)にして測定します。傾斜が指定されている計器の例ははあまり見かけませんが、もし指定があればそのようにしなければなりません。指定された姿勢で正しい指示をするように作られていますから、指定されていない姿勢で測定をすると誤差が大きくなります。
確度の階級記号
次の表は、確度の階級記号を表しています。確度は、計器の誤差がフルスケールに対して、どの範囲内に入るのかを示しています。
確度が1.0級で、フルスケールが100〔V〕の計器では、誤差は指示された値対して±1.0〔V〕以内になります。たとえば、この計器で指示値が90〔V〕であれば、正しい値は90±1〔V〕で、89~ 91〔V〕の範囲内にあることになります。この場合、測定値に対する誤差の割合は
しかし、指示値が9〔V〕であれば、誤差の割合は±11.1%になってしまいます。このことから、誤差を小さくするためには、フルスケールを越えない範囲で、できるだけフルスケール近くまで指針を振らせて読み取るのがよいことがわかります。
0.5級なら±0.5〔V〕以内、0.2級なら±0.2〔V〕以内になります。このように確度の高い計器を使えば誤差が少なくなるのですが、計器の構造も精密になります。このような計器は、高価で壊れやすくなり、振動の影響も受けやすくなるため、天秤を置く台のように安定した台に設置するとともに、温度・湿度も管理された部屋で測定をします。電気保全作業のため携帯用として環境の悪い職場で自由に使える計器ではありません。
ディジタル方式の計器では、パネルに0.5級や1.0級といった表示はされていないのが普通です。アナログ値をディジタル値に変換するフルスケールに対する誤差と最も小さい値を表示する桁の誤差の2種類がありますから、マニュアルを見ると±0.2%± 2 digitといった表現になっています。
ディジタル方式計器は,測定値が数値で表示され、比較的容易に取り扱うことができます。だから、表示された数値がすべて正しいと誤解する人が多いのですが、全部の桁の数値が正しいのではありません。
アナログ計器とディジタル計器の特徴
デイジタル計器の長所は次の通りです。
- 読取り誤差がない
- レンジ切替えを自動化できる
- 可動部がなく壊れにくい
- 計器の回路に対する影響が少ない
デイジタル計器の短所は次の通りです。
- 遠くから見ると指示値がわからない
- 電源がないと測定できない
アナログ計器の長所・短所は、ディジタル計器の長所はアナログ計器の短所であり、デイジタル計器の短所はアナログ計器の長所だと考えてください。
アナログ計器の読取り誤差
アナログ計器には,指針の位置を正しく読み取れないと読取り誤差が発生するという短所があります。
2の位置は指針に対して真上の方向で、この位置から見ると指示は正しい値の3となります。1の位置から見ると指示値は4、3の位置からは指示値が2となって読取り値は誤った値になります。もし、測定者が常に1の方向にずれて読み取るくせがありますと、測定値にかたよりを生じます。
この誤りを少なくするために、指針は細長い断面の形状をしています。このような形にしますと、2の位置(真上の方向)から見ると指針の幅がもっとも細く見え、1や3の位置(斜めの方向)から見ると指針の幅は大くなります。したがって、指針の幅がもっとも細く見える位置で指示を読み取れば、誤差が少なくなるようにしているのです。
精密な計器では、さらに読取り位置を正確にして読取り誤差を少なくする必要があります。例えば、目盛板にミラー(鏡)をつけ、読取り時にミラーを見ます。1や3の位置から見ますと目は指針と重なって見えませんが、2の位置からミラーを見ますと自分の目が指針と重なって見えますから、この位置から指針を読み取ります。
ディジタル計器のレンジ自動切替え
レンジ切替えが自動であることと、可動部がなく壊れにくいことは、ディジタル計器の大きな長所です。
アナログ計器は、指針を振らせて測定値を読み取りますから、動く部分があります。もし、最大読取り値の数倍以上の電圧や電流が流れますと、指針は振り切れ、指針が曲がったり、指針支持部が壊れたりします。場合によっては、コイルが焼損してしまう可能性もあります。これから測定する電圧や電流がわからないときには、計器のもっとも高いレンジ(最大読取り値)で測定して概略の値を見定めてから、適切なレンジに切り替えて正確な値を読み取る必要があります。複数の測定レンジを持っていない計器であれば、何台かの計器をあらかじめ準備しておき、測定値が変わるたびに取り替えなければなりません。これは非常に不便なことです。
その点、ディジタル計器では、動く部分はないので心配はありません。また、ほとんどのデイジタル計器では、レンジを自動的に設定してくれる機能がありますから、その計器で測定できないような、特に大きな値や小さな値の計測でなければ、計器を交換するといった面伊Iや計器を壊すという心配はありません。ただ、先に測定したときには単位が〔V〕であったのに、次に測定したときには、〔mV〕や〔μV〕に変わっていたとか、小数点の位置が変わっていたりするので、注意が必要です。
計器の価格
ディジタル計器の価格を大きく左右する要因に桁数があります。カタログを見ますと、3.5桁や4.5桁などと書いてあるディジタル計器があります。数学では、桁数は整数であって, 3桁や4桁はあっても、3.5桁や4.5桁という0.5桁の意味を勉強した記憶がありません。3.5桁というのは、表示する桁数は4桁ですが、左端の桁(もっとも大きな数値を表示する桁)は、1は表示しますが、2以上の数値を表示しないというものです。
3.5桁ディジタル計器の表示は次のようになります。10.12〔V〕を表示するときは、10.12となり、19.99〔V〕を表示するときは、19.99となります。もし、20〔V〕を超える値を表示するときは、左端の桁は2を表示しませんから、20.0や20.1と表示されます。
したがって、最初の数値が1であれば、4桁で表示されますから、有効数字は4桁ですが、1以外の数値で、有効数字は3桁になります。3.5桁のディジタル計器の有効数字は、3桁または4桁、4.5桁のディジタル計器の有効数字は、4桁または5桁になります。4.5桁の計器は、3.5桁の計器より有効数字が1桁多くなります。いいかえれば、桁数の多い計器は精度がよく、誤差が小さくなります。
桁数を多くして誤差を少なくするには、機器自体の精度を高くしなければなりません。当然、機器を構成する部品にも高い精度が要求されるのです。
これが、桁数によって価格が大きく異なる理由です。4.5桁のディジタルマルチメータ(DC電圧、AC電圧、DC電流、抵抗測定などの複合機能を持つディジタル計器)では、3.5桁の1.5~ 2倍程度の価格になります。さらに、計器校正用に使う7桁以上の表示桁を持つ計器では、価格が数百万円もするものもあります。単に表示する桁を多くしているだけではないということを知っておいてください。
視認性
遠くから見ると指示値がわからないことはディジタル計器の欠点ですが、限定的な用途で発生するもので、大きな問題ではありません。ディジタル計器の特徴の正確な値が読み取れるという長所を裏返しに考えますと,測定単位を含めて表示された数値を正確に読み取らなければ誤差が大きくなるという短所があるということになるのです。
もし、概略の電圧を確認したいといつた例を考えてみましょう。アナログ計器では、遠くから見ても概略の指示値を知ることができ、運転状態が正常か、異常かの目途がつきますが、ディジタル計器では、遠くから見ると指示値を読み取りにくいので、運転状態が正常か異常かわからないことがあります。
アナログ計器の指示は連続的ですから、測定の対象となる量が変動すると測定器では、ほぼ同時に指示値が変化します。しかし、ディジタル計器の指示はある時間測定した値を平均して数値で表示していますから、ある時間が経過しないと新しい指示値に更新されません。1秒間に何回表示値を更新するかを表しているのが、サンプリング回数〔回/秒〕です。
サンプリング回数が多ければ表示の切替えが早いので,都合が良いように思いますが,測定対象量の変化が激しいときには指示値が常に変動して読み取るのが困難です。アナログ計器でも、指針が振れて読みにくくはなりますが、ディジタル計器よりは読取りが容易でしよう。
安価な計測器ではサンプリング回数は固定されているものが多いのですが、高価な計器ではサンプリング回数(もしくはサンプリング間隔)を変化させる機能を持っているものもありますから、測定の目的に合わせて適切な設定ができるようになっています。
時間的な変動は無視して、ある瞬間の値を知りたい場合があります。このようなときには、ホールド(HOLD)機能を使います。ホールド機能は、一度表示した値は測定量が変化しても新たな値に更新することを停止させる機能です。したがって,一度測定した値を記憶して表示し続けますから、読取りは容易になりますが、ホールド機能の解除を忘れますと新しい測定値が表示されませんから注意が必要です。
電源の要否
アナログ計器で抵抗値を測定する場合には電源が必要ですが、電圧や電流を測定する場合、電源がなくても測定できます。しかし、デイジタル計器では電源がないとすべての測定はできません。テスタや小型の計器では電池内蔵のものが多いのですが、電池が消耗していますと測定が不可能になります。交流100〔V〕が必要な計器では、移動して測定するには不便です。