このページでは、直流機の電機子反作用について、初心者の方でも解りやすいように、基礎から解説しています。また、電験三種の機械科目で、実際に出題された直流機の電機子反作用の過去問題の解き方も解説しています。
電機子反作用とは
直流機に負荷が加わり、電機子巻線に電流が流れると電機子電流によっても磁束が発生します。それぞれの磁束を合成すると、磁束の流れに偏りができ、界磁がつくる主磁束の分布に悪影響を与えます。この現象を「電機子反作用」といいます。この大きさは、電機子電流の大きさに比例します。
機子反作用によって、発電機の起電力が減少したり、磁束密度が 0[T]となる位置、つまり中性軸が移動したりします。
電機子反作用による問題
図1(a)は、 2極の発電機において、磁極と電機子の間のエアギャップでの界磁磁束の分布図です。図1(b)は、界磁磁束を考えずに、電機子電流のみが流れたときの磁束の分布図です。そこで、負荷運転中のエアギャップの磁束分布は、図1(a)の界磁電流のみによる磁束と図1(b)の電機子電流のみによる磁束との和の図1(c)に示すようになりますので、中性軸YY’は回転の向きに角度$θ$[rad]だけ移動します。
この新しい軸nn′ を電気的中性軸といい、移動前の中性軸YY’を幾何学的中性軸といいます。 このように、電気的中性軸が移動すると、ブラシの位置が図1(c) のYY′ のままでは、このブラシで短絡される電機子巻線に起電力が誘導され、短絡電流が流れるので、ブラシと整流子片間に火花が生じ整流子を焼損します。
- 整流の悪化:交差磁化作用による電気的中性軸が移動するため整流が正しく行われなくなります。
- 主磁束の減少:偏磁作用によって有効磁束を減少させます。
- 整流子片間に火花発生:整流子片間に電圧が不均一になり火花やフラッシオーバーが発生しやすくなります。
ブラシの移動
火花の発生をなくすには、ブラシの位置を回転の向きに角度$θ$だけ移動させる必要があります。こうすると、電機子電流による磁束は、図2(a)に示すようになります。この磁束を生じさせる起磁力を電機子起磁力といい、$F_a$で表します。
図2(b)は、電機子起磁力 $F_a$ と界磁起磁力 $F$ をベクトル図で表したものです。電機子起磁力 $F_a$ の界磁起磁力 $F$ の方向のベクトル $F_d$ は、界磁起磁力 $F$ の大きさを小さくしています。この働きを減磁作用といい、 $F_d$ は減磁起磁力といわれます。
また,電機子起磁力 $F_a$ の界磁起磁力 $F$ の方向に垂直なベクトル $F_c$ は $F$ の方向を曲げています。この働きを交さ磁化作用といい、 $F_c$ は交さ起磁力といわれます。
電機子反作用の防止
電機子反作用への対策として、電機子電流による磁束を打ち消す方法がとられます。直流機では「補償巻線」や「補極」が設置されています
- 補償巻線
電機子電流による起磁力を打ち消すため、磁極片の表面に取り付けて電気子電流と逆向きの電流が流れるようにした巻線です。主極片のエアギャップに面した所に複数個のスロットを設け、絶縁したコイルを挿入し、エアギャップを介して対応する電機子導体に流れる電流と反対方向の電流を流して電機子反作用起電力を打ち消します。 - 補極
固定子の磁極の間に設置する磁極です。電気的中性軸の移動を防ぎ整流を改善します。
電験三種-機械(直流機)過去問
1999年(平成11年)問2
直流発電機に負荷をつないで、電機子巻線に電流を流すと、( ア )により電気的中性軸が移動し、整流が悪化する。この影響を防ぐために、ブラシを移動させるほか、次の方法が用いられる。その一つは、主磁極とは別に幾何学的中性軸上に( イ )を設け、電機子電流に比例した磁束を発生させて、幾何学的中性軸上の( ア )を打ち消すとともに、整流によるリアクタンス電圧を有効に打ち消す方法である。
他の方法は、主磁極の磁極片にスロットを設け、これに巻線を施して電機子巻線に( ウ )に接続して電機子電流と逆向きに電流を流し、電機子の起磁力を打ち消すようにした( エ )による方法である。
上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ)及び(エ)に記入する語句として、正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | |
(1) | 減磁作用 | 補極 | 並列 | 補償巻線 |
(2) | 減磁作用 | 補償巻線 | 直列 | 補極 |
(3) | 電機子反作用 | 補極 | 直列 | 補償巻線 |
(4) | 電機子反作用 | 補償巻線 | 並列 | 補極 |
(5) | 電機子反作用 | 補償巻線 | 直列 | 補極 |
1999年(平成11年)問2 過去問解説
直流発電機に負荷をつないで、電機子巻線に電流を流すと、( 電機子反作用 )により電気的中性軸が移動し、整流が悪化する。この影響を防ぐために、ブラシを移動させるほか、次の方法が用いられる。その一つは、主磁極とは別に幾何学的中性軸上に( 補極 )を設け、電機子電流に比例した磁束を発生させて、幾何学的中性軸上の( 電機子反作用 )を打ち消すとともに、整流によるリアクタンス電圧を有効に打ち消す方法である。
他の方法は、主磁極の磁極片にスロットを設け、これに巻線を施して電機子巻線に( 直列 )に接続して電機子電流と逆向きに電流を流し、電機子の起磁力を打ち消すようにした( 補償巻線 )による方法である。
答え (3)
2004年(平成16年)問2
直流発電機に負荷が加わると、電機子巻線に負荷電流が流れ電機子に起磁力が発生する。主磁極に生じる界磁起磁力の方向を基準としたとき、この電機子の起磁力の方向(電気角)[rad] として、正しいのは次のうちどれか。
ただし、ブラシは幾何学的中性軸に位置し、補極及び補償巻線はないものとする。
(1) 0 (2) π/3 (3) π/2 (4) 2π/3 (5) π
2004年(平成16年)問2 過去問解説
電機子の電機子反作用の起電力を発生させる磁束は、界磁の磁束より90°ずれます。
答え (3)
2011年(平成23年)問1
次の文章は、直流発電機の電機子反作用とその影響に関する記述である。
直流発電機の電機子反作用とは、発電機に負荷を接続したとき( ア )巻線に流れる電流によって作られる磁束が( イ ) 巻線による磁束に影響を与える作用のことである。電機子反作用はギャップの主磁束を( ウ )させて発電機の端子電圧を低下させたり、ギャップの磁束分布に偏りを生じさせてブラシの位置と電気的中性軸とのずれを生じさせる。このずれがブラシがある位置の導体に( エ )を発生させ、ブラシによる短絡等の障害の要因となる。ブラシの位置と電気的中性軸とのずれを抑制する方法の一つとして、補極を設けギャップの磁束分布の偏りを補正する方法が採用されている。
上記の記述中の空白箇所から(ア),(イ),(ウ)及び(エ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | |
(1) | 界 磁 | 電機子 | 減少 | 接触抵抗 |
(2) | 電機子 | 界 磁 | 増加 | 起電力 |
(3) | 界 磁 | 電機子 | 減少 | 起電力 |
(4) | 電機子 | 界 磁 | 減少 | 起電力 |
(5) | 界 磁 | 電機子 | 増加 | 接触抵抗 |
2011年(平成23年)問1 過去問解説
直流発電機の電機子反作用とは、発電機に負荷を接続したとき( 電機子 )巻線に流れる電流によって作られる磁束が( 界磁 ) 巻線による磁束に影響を与える作用のことである。電機子反作用はギャップの主磁束を( 減少 )させて発電機の端子電圧を低下させたり、ギャップの磁束分布に偏りを生じさせてブラシの位置と電気的中性軸とのずれを生じさせる。このずれがブラシがある位置の導体に( 起電力 )を発生させ、ブラシによる短絡等の障害の要因となる。ブラシの位置と電気的中性軸とのずれを抑制する方法の一つとして、補極を設けギャップの磁束分布の偏りを補正する方法が採用されている。
答え (4)
2016年(平成28年)問2
次の文章は、直流機に関する記述である。
直流機では固定子と回転子の間で直流電力と機械動力の変換が行われる。この変換を担う機構の一種にブラシと整流子とがあり、これらを用いた直流機では通常、界磁巻線に直流の界磁電流を流し、( ア )を回転子とする。このブラシと整流子を用いる直流機では、電機子反作用への対策として補償巻線や補極が設けられる。ブラシと整流子を用いる場合には、補極や補償巻線を設けないと、電機子反作用によって、固定子から見た( イ )中性軸の位置が変化するために、これに合わせてブラシを移動しない限りブラシと整流子片との間に( ウ )が生じて整流子片を損傷するおそれがある。なお、小形機では、補償巻線と補極のうち( エ )が一般的に用いられる。
上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ)及び(エ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | |
(1) | 界磁 | 電気的 | 火花 | 補償巻線 |
(2) | 界磁 | 幾何学的 | 応力 | 補極 |
(3) | 電機子 | 電気的 | 火花 | 補極 |
(4) | 電機子 | 電気的 | 火花 | 補償巻線 |
(5) | 電機子 | 幾何学的 | 応力 | 補償巻線 |
2016年(平成28年)問2 過去問解説
直流機では固定子と回転子の間で直流電力と機械動力の変換が行われる。この変換を担う機構の一種にブラシと整流子とがあり、これらを用いた直流機では通常、界磁巻線に直流の界磁電流を流し、( 電機子 )を回転子とする。このブラシと整流子を用いる直流機では、電機子反作用への対策として補償巻線や補極が設けられる。ブラシと整流子を用いる場合には、補極や補償巻線を設けないと、電機子反作用によって、固定子から見た( 電気的 )中性軸の位置が変化するために、これに合わせてブラシを移動しない限りブラシと整流子片との間に( 火花 )が生じて整流子片を損傷するおそれがある。なお、小形機では、補償巻線と補極のうち( 補極 )が一般的に用いられる。
答え (3)