これだけは知っておきたい電気設備の基礎知識をご紹介します。このページでは「変庄器のしくみとメンテナンスのポイント」について、維持管理や保全などを行う電気技術者の方が、知っておくとためになる電気の基礎知識を解説しています。
変圧器とは何か
変圧器(Transformer)のことを、電気技術者はトランスと略称していますが、トランスとはどんな電気設備なのでしょうか。第1図にビルや工場その他に広く使われている変圧器の一例を示します。
変圧器のシンボル
電気図面では、変圧器は規格によって次のような形で表わすことになっています。
(イ)(ロ)は単相変圧器を示すシンボルです。(ハ)は、単線図用のシンボルで、(イ)(ロ)の一次、二
次は2本ずつ線を書くのに対して、(ハ)は1本にして書いてもよいことになっています。(二)も単線図用のシンボルです。
変圧器の働き
発電所、変電所、工場、 ビルなど、およそ電気を使用している所には、変圧器が必ず置いてあります。電力会社から送られてくる電気は、電圧6600Vとか22 kVなど高い電圧です。ビル内にある空調機や電動機、蛍光灯などは、400V, 200V, 100Vといった電圧で使用されています。そのために、電圧6000Vを何種類かの電圧に降圧して電気を送らなければなりません。このように電圧の大きさを変えるのが変圧器の役目です。
変圧器の原理と構造
単相変圧器の原理を示す構造図が第4図です。
環状鉄心
変圧器の磁束を通す通路の役目をはたすもので、珪素鋼板という材料で作られています。
一次巻線・二次巻線
環状鉄心の磁束を切る(鎖交する)ように、鉄心にぐるぐると絶縁した電線を巻きつけたものです。
理論式
変圧器の損失がまったくないとすると、
入力=出力( $V_1I_1=V_2I_2$ )
ここで、$V_1$:一次電圧〔V〕,$V_2$:二次電圧〔V〕
$I_1$:一次電流〔A〕,$I_2$:二次電流〔A〕
また、電圧は巻数に比例しますので、
$V_1:V_2=w_1:w_2$
$w_1$は一次巻線の巻数、$w_2$は二次巻線の巻数
∴$V_2=\displaystyle\frac{w_2}{w_1}V_1$〔V〕
例えば、$w_1=1000$ 回 , $w_2=100$ 回とすると、
$V_2=\displaystyle\frac{100}{1000}V_1=0.1V_1$〔V〕
となり、二次電圧は、一次電圧の1/10に降圧できます。
絶縁油
巻線の絶縁と冷却のために使用します。 絶縁油は原油を精製処理した鉱油が広く用いられています。特に火災を避けたい場合には、難燃性のシリコ ーン油が用いられます。
変圧器のメンテナンス
点検の重要性
変圧器は, ビルや工場の受変電設備の主要機器であり、事故で停電するとたいへんなことになります。日常の点検検や定期点検を怠って、事故発生につながる初期異常を見逃し、変圧器の寿命を縮めるようなことがあってはなりません。
負荷と温度
日頃と同じ負荷状況で、絶縁油の油温が5℃ 以上も高くなった場合、冷却装置に異常ないかチェックすることが必要です。冷却状況も良いとしたら、何か内部の異常が推定されます。変圧器に付いている温度計は、最高油温を検知できる場所に取付けてありますので、絶縁油の温度上昇(周囲温度との差)が、50℃ を越えないように注意して、負荷運転を考えることが大切です。
絶縁油と温度
変圧器は負荷の変化で絶縁油の温度が変わってきます。ビルなどでは、深夜に負荷が軽くなると、絶縁油の温度低下に伴って、油面が低下します。このとき、湿度の高い空気が変圧器外箱内に吸い込まれ、絶縁油中に水分が吸収され、絶縁耐力が著しく低下することがあります。1~ 2年に1回は絶縁油の絶縁破壊試験を実施することが良く、これは変圧器の運転中にもできます。
ガス分析
ガス分析は、変圧器内部の異常診断方法です。変圧器の内部異常事故によって、局部的に発熱すると、絶縁物等が熱分解を起こして、 可燃性ガスが発生します。ガスは油中に溶解するので、ガス分析をすれば内部異常が推定できるわけです。端子部や巻線内部でアーク放電(アーク温度1000℃ 以上)が起きた場合は、アセチレンや水素が必ず検出されます。アセチレンガスが微量でも検出されたときは、異常が発生したことが考えられるので、 3カ月ごとの追跡調査が必要です。
端子部の接触不良で低温加熱(200~ 300℃ )を起こすと、メタンやエタンが検出されます。巻線の絶縁物(クラフト紙、プレスボードなど)が低温加熱を受けると、一酸化炭素、炭酸ガス、エタンが検出されます。このようにガス分析によって変圧器の内部異常を早期に発見できますので、変圧器の保護継電器に異常表示がなければ、定期的にガス分析を行うのが良いでしょう。