このページでは、汽力発電所のランキンサイクルについて、初心者の方でも解りやすいように、基礎から解説しています。また、電験三種の電力科目の試験で、実際に出題された、汽力発電所のランキンサイクルの過去問題も解説しています。
汽力発電所
汽力発電のしくみ
汽力発電所では、石油や石炭、液化天然ガスなどの燃料を火炉で燃焼し、熱エネルギーによって高温・高圧の蒸気をボイラで発生させ、蒸気タービンに送ってタービンを回転させることにより、タービンに連結した発電機で発電をしています。
蒸気タービンとは?
蒸気タービンは外燃機関の一種で、外部で発生させた高温の蒸気をタービン(羽根車)に吹きつけて回転させ、動力や推進力を発生させることのできる機関です。タービンは水力発電の水車にあたります。
汽力発電所のランキンサイクル
汽力発電所では、蒸気を動作流体としたサイクルが形成されています。蒸気は保有熱量が大きいことと、水を加熱することにより容易に作り出すことができるため広く用いられています。
① 給水ポンプで水をボイラに送ります。
② 水はボイラで熱せられ蒸気になります。蒸気はさらに加熱器で熱せられ加熱蒸気になります。
③ 加熱蒸気がタービンを回転させます。
④ 蒸気は復水器によって水に戻され、給水ポンプに送られます。
このような基本となる汽力発電所の理論蒸気サイクルをランキンサイクルといいます。
気体の状態変化
飽和蒸気と過熱蒸気
水が沸騰する時の温度を飽和温度といいます。飽和温度に達した水を加熱しても、それ以上温度は上がりません。このように水が沸騰している最中に発生する蒸気を飽和蒸気といいます。
水が沸騰している最中に発生する飽和蒸気は水分を含んでいますので、湿り飽和蒸気といいます。この湿り飽和蒸気をさらに過熱すると、水分が完全に蒸発した乾き飽和蒸気になります。
乾き飽和蒸気をさらに過熱すると、蒸気の温度は飽和温度を超えて上昇します。この状態の蒸気を過熱蒸気といいます。
ボイルシャルルの法則
気体の体積は圧力に反比例し、絶対温度に比例します。この法則をボイルシャルルの法則といいます。ボイルシャルルの法則では、気体は体積、圧力、温度のどれかを一定に保つと、次のような状態を変化させることができます。
等積変化 … 体積を一定に保ったまま、温度や圧力を変化させる。
等温変化 … 温度を一定に保ったまま、体積や圧力を変化させる。
等圧変化 … 圧力を一定に保ったまま、温度や体積を変化させる。
また、外部と熱のやりとりをしないで、体積と圧力を変化させることを断熱変化といい、次の2つの場合があります。
断熱膨張 … 体積を増やす(圧力、温度減少)
断熱圧縮 … 体積を減らす(圧力、温度上昇)
汽力発電所での状態変化
汽力発電所の水や蒸気は、各過程で断熱変化と等圧変化を繰り返しています。このサイクルを縦軸に圧力 P、横軸に体積 V をとった P-V線図と、縦軸に温度 T、横軸にエントロピー s をとった T-s 線図で表すと次の図のようになります。
尚、エントロピーとは熱力学における物質の状態変化を表す量の一つで、熱の出入りの状態を表しています。
場所 | 過程 | 変化 |
ボイラ | 水を飽和温度に達するまで加熱する。 飽和温度に達した水を加熱して飽和蒸気にする。 | 温度増(等積・等圧変化) 体積増(等温・等圧変化) |
過熱器 | 飽和蒸気をさらに過熱する | 温度増・体積増(等圧変化) |
タービン | 蒸気の圧力でタービンを回転させる | 体積増・圧力減・温度減(断熱膨張) |
復水器 | 蒸気を冷却して水に戻す | 体積減(等温・等圧変化) |
給水ポンプ | 給水を圧縮してボイラに送る | 圧力増・温度増(断熱圧縮) |
汽力発電所の熱サイクル
汽力発電所の理論蒸気サイクルをランキンサイクルといいます。ランキンサイクルの基本4工程は、
- 給水ポンプで断熱圧縮
- ボイラ・過熱器で等圧受熱
- タービンで断熱膨張
- 復水器で等圧放熱
です。このランキンサイクルを改良し、効率を高めたサイクルが汽力発電所では利用されています。
再熱サイクル
再熱サイクルは、タービンで膨張した湿り蒸気をボイラの再熱器で加熱し、再びタービンに送って膨張させる熱サイクルです。
湿り蒸気をボイラに戻すことにより、熱効率の向上と、水滴によるタービンの損傷を防止できます。
再生サイクル
再生サイクルは、タービン内の蒸気の一部を抽出して、ボイラ給水の加熱を行う熱サイクルです。
再生サイクルでは、復水器で失う熱量が減少するため、熱効率を向上させることができます。
再生サイクルによる熱効率向上効果は、抽出する蒸気の圧力、温度が高いほど大きくなります。
再熱再生サイクル
再生サイクルと再熱サイクルを組み合わせたサイクルです。再熱サイクルの熱力学的な利点と、再生サイクルの熱量損失軽減の、両長所を生かしています。
尚、ほとんどの大容量汽力発電所で採用されています。
電験三種-電力(火力発電)過去問
2002年(平成14年)問2
図は汽力発電所の熱サイクルを示している。図の各過程に関する記述として、誤っているのは次のうちどれか。
- A→Bは、等積変化で給水の断熱圧縮を示す。
- B→Cは、ボイラ内で加熱される過程を示し、飽和蒸気が加熱器でさらに過熱される過程も含む。
- C→Dは、タービン内で熱エネルギーが機械エネルギーに変換される断熱圧縮の過程を示す。
- D→Aは、復水器内で蒸気が凝縮されて水になる等圧変化の過程を示す。
- A→B→C→D→Aの熱サイクルをランキンサイクルという。
2002年(平成14年)問2 過去問解説
- 正しい
- 正しい
- C→Dは、タービン内で熱エネルギーが機械エネルギーに変換される断熱膨張の過程を示す。
- 正しい
- 正しい
答え (3)
2008年(平成20年)問3
図は、汽力発電所の基本的な熱サイクルの過程を、体積Vと圧力Pの関係で示したPV線図である。
図の汽力発電の基本的な熱サイクルを( ア )という。A→Bは、給水が給水ポンプで加圧されボイラに送り込まれる( イ )の過程である。B→Cは、この給水がボイラで加熱され、飽和水から乾き飽和蒸気となり、さらに過熱され加熱蒸気となる( ウ )の過程である。C→Dは、加熱蒸気がタービンで仕事をする( エ )の過程である。D→Aは、復水器で蒸気が水に戻る( オ )の過程である。
上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ),(エ)及び(オ)に当てはまる語句として、正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | (オ) | |
(1) | ランキンサイクル | 断熱圧縮 | 等圧受熱 | 断熱膨張 | 等圧放熱 |
(2) | ブレイトンサイクル | 断熱膨張 | 等圧放熱 | 断熱圧縮 | 等圧放熱 |
(3) | ランキンサイクル | 等圧受熱 | 断熱膨張 | 等圧放熱 | 断熱圧縮 |
(4) | ランキンサイクル | 断熱圧縮 | 等圧放熱 | 断熱膨張 | 等圧受熱 |
(5) | ブレイトンサイクル | 断熱圧縮 | 等圧受熱 | 断熱膨張 | 等圧放熱 |
2008年(平成20年)問3 過去問解説
図の汽力発電の基本的な熱サイクルを( ランキンサイクル )という。A→Bは、給水が給水ポンプで加圧されボイラに送り込まれる( 断熱圧縮 )の過程である。B→Cは、この給水がボイラで加熱され、飽和水から乾き飽和蒸気となり、さらに過熱され加熱蒸気となる( 等圧受熱 )の過程である。C→Dは、加熱蒸気がタービンで仕事をする( 断熱膨張 )の過程である。D→Aは、復水器で蒸気が水に戻る( 等圧放熱 )の過程である。
答え (1)
2014年(平成26年)問2
図に示す汽力発電所の熱サイクルにおいて、各過程に関する記述として誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
- A → B:給水が給水ポンプによりボイラ圧力まで高められる断熱膨張の過程である。
- B → C:給水がボイラ内で熱を受けて飽和蒸気になる等圧受熱の過程である。
- C → D:飽和蒸気がボイラの過熱器により過熱蒸気になる等圧受熱の過程である。
- D → E:過熱蒸気が蒸気タービンに入り復水器内の圧力まで断熱膨張する過程である。
- E → A:蒸気が復水器内で海水などにより冷やされ疑縮した水となる等圧放熱の過程である。
2014年(平成26年)問2 過去問解説
- A → B:給水が給水ポンプによりボイラ圧力まで高められる断熱圧縮の過程である。
- 正しい
- 正しい
- 正しい
- 正しい
答え (1)
2015年(平成27年)問2
汽力発電所における再生サイクル及び再熱サイクルに関する記述として、誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
- 再生サイクルは、タービン内の蒸気の一部を抽出して、ボイラの給水加熱を行う熱サイクルである。
- 再生サイクルは、復水器で失う熱量が減少するため、熱効率を向上させることができる。
- 再生サイクルによる熱効率向上効果は、抽出する蒸気の圧力、温度が高いほど大きい。
- 再熱サイクルは、タービンで膨張した湿り蒸気をボイラの過熱器で加熱し、再びタービンに送って膨張させる熱サイクルである。
- 再生サイクルと再熱サイクルを組み合わせた再熱再生サイクルは、ほとんどの大容量汽力発電所で採用されている。
2015年(平成27年)問2 過去問解説
- 正しい
- 正しい
- 正しい
- 再熱サイクルは、タービンで膨張した湿り蒸気をボイラの再熱器で加熱し、再びタービンに送って膨張させる熱サイクルである。
- 正しい
答え (4)