このページでは、調相設備(電力用コンデンサ、分路リアクトル、同期調相機など)について、初心者の方でも解りやすいように、基礎から解説しています。また、電験三種の電力科目の試験で、実際に出題された調相設備(電力用コンデンサ、分路リアクトル、同期調相機など)の過去問題も解説しています。
調相設備
変電所では、負荷が変動しても電圧値をほぼ一定に保つために、力率を調整する装置を設置しています。この装置を調相設備といい、負荷と並列に接続して無効電力の調整を行っています。
調相設備には、電力用コンデンサ、分路リアクトル、静止形無効電力補償装置、同期調相機などがあります。
電力用コンデンサ
電力用コンデンサは、遅れ無効電力を消費する調相装置です。力率を進めるために用いられます。重負荷時には無効電力が増加し、系統の電圧が低下する傾向にありますので、電力用コンデンサを投入し、系統の電圧降下を補償しています。
電力用コンデンサは、コンデンサ本体と、放電コイル、直列リアクトルで構成されています。放電コイルは、コンデンサが電路から切り離された時に、残留電荷を放電する目的で設置されています。また直列リアクトルは、過大な高周波電流の流入を抑制する目的で設置されています。
電力用コンデンサの特徴
- 構造が簡単
- 保守が容易
- 価格が低廉
- 段階的な無効電力の調整が可能
分路リアクトル
分路リアクトルは、進相無効電力を消費する調相装置です。電力用コンデンサと逆の機能を持ち、力率を遅らせるために用いられます。長距離送電やケーブルの採用などにより対地容量が増加し、軽負荷時には、フェランチ効果により系統電圧が上昇する傾向がありますので、分路リアクトルを系統に挿入し、電圧上昇を抑制しています。
分路リアクトルは変圧器に似た構造で、各相1巻線で所定のリアクタンスを得るため、磁気回路にエアギャップを設け、漏れ磁束を多くしています。
分路リアクトルの特徴
- 構造が簡単
- 保守が容易
- 価格が低廉
- 構造上、鉄心からの騒音が大きい
- 段階的な無効電力の調整が可能
分路リアクトルの他にも、電力系統ではさまざまなリアクトルが使用されています。
- 直列リアクトル
電路に電力コンデンサを接続すると、電源に含まれている第五高調波成分の増幅により、電力損失の増大や機器の絶縁破壊が発生する場合があります。そのため、電力コンデンサの静電容量と直列共振状態を構成するリアクタンスを電力コンデンサに直列に接続しています。
- 限流リアクトル
電路が低力率の場合、遮断器の遮断容量を減少させることを目的として、母線の入力回路にリアクタンスを挿入します。
- 中性点リアクトル
中性点接地方式の一つで、中性点をリアクトルで接地します。ケーブルを多く用いている電力系統において、1線地絡時に零相無効電流によるフェランチ効果で発生する電圧上昇を防ぐため、リアクトル接地が使われています。中性点をリアクトルで接地する方式には、消弧リアクトル接地方式と補償リアクトル接地方式に分類されます。
- 消弧リアクトル接地方式
送電線の対地静電容量と共振させたエアギャップのある鉄心リアクトルで中性点を接地する方式です。 - 補償リアクトル接地方式
中性点接地抵抗器とリアクトルを並列にして接地したものです。リアクトルにより地絡時の地絡電流中の充電電流を減らすことにより、地絡事故点の電流を減らすことができます。
- 消弧リアクトル接地方式
静止形無効電力補償装置
静止形無効電力補償装置は、パワーエレクトロニクス(電力用半導体素子)を用いた無効電力を高速に制御して供給する調整装置です。無効電力を連続的に制御することができます。静止形無効電力補償装置は、受動的SVCと自励式SVCと呼ばれるものが多く使われています。
受動的SVC
サイリスタによりリアクトル電流を位相制御し、遅相無効電力を連続的に変化させ、並列に設置した電力用コンデンサ(進相コンデンサ)との合成電流で、進相から遅相まで連続的に無効電力を調整する装置です。
自励式SVC
自己消弧型素子を使った自励式インバータを補償電源とし、電源系統と接続するリアクタンス(変圧器)と、蓄電部である直流コンデンサで構成されています。インバータの出力電圧を調整して進相から遅相まで連続的に無効電力を調整できます。
同期調相機
同期調相機は、電力系統が重負荷のときは、同期調相機の界磁電流を強め、軽負荷のときは界磁電流を弱めて、遅相無効電力から進相無効電力まで、連続的に無効電力を調整できる装置です。ただし、パワーエレクトロニクスの発達により、最近ではほとんど導入されていません。
同期調相機は、同期電動機と構造的には同じで、V曲線と呼ばれる特性を有しており、無負荷運転で界磁電流を連続的に変化させると、電機子電流が遅相電流から進相電流まで連続して変化します。同期調相機は、1台で電力用コンデンサと分路リアクトルの機能を有しており、連続的に無効電力を調整できます。
同期調相機の特徴
- 構造が複雑
- 保守が大変
- 価格が高価
- 応答性が良い
- 連続的な無効電力の調整ができる
電験三種-電力(変電所)過去問題
1997年(平成9年)問6
電力系統の電圧低下防止に有効な機器として、誤っているのは次のうちどれか。
- 負荷時タップ切換変圧器
- 同期発電機
- 同期調相機
- 分路リアクトル
- 電力用コンデンサ
1997年(平成9年)問6 過去問解説
分路リアクトルは、進相無効電力を消費する調相装置です。電力用コンデンサと逆の機能を持ち、力率を遅らせるために用いられます。長距離送電やケーブルの採用などにより対地容量が増加し、軽負荷時には、フェランチ効果により系統電圧が上昇する傾向がありますので、分路リアクトルを系統に挿入し、電圧上昇を抑制しています。
答え (4)
1998年(平成10年)問5
変電所で電圧調整のために用いられる同相調相機に関する次の文章について、空白箇所(ア),(イ),(ウ),(エ),(オ)及び(カ)に記入する字句として、正しいものを組み合わせたのは(1)~(5)のうちどれか。
電力系統が( ア )のときは、同期調相機の界磁を( イ )、電力系統から進み電流をとって( ウ )負荷として働かせ電圧降下を抑制する。逆に電力系統が( エ )のときは、同期調相機の界磁を( オ )、電力系統から遅れ電流をとって( カ )負荷として働かせ電圧上昇を抑制する。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | (オ) | (カ) | |
(1) | 重負荷 | 強め | 容量性 | 軽負荷 | 弱め | 誘導性 |
(2) | 重負荷 | 弱め | 容量性 | 軽負荷 | 強め | 誘導性 |
(3) | 軽負荷 | 強め | 誘導性 | 重負荷 | 弱め | 容量性 |
(4) | 軽負荷 | 弱め | 誘導性 | 重負荷 | 強め | 容量性 |
(5) | 重負荷 | 強め | 誘導性 | 軽負荷 | 弱め | 容量性 |
1998年(平成10年)問5 過去問解説
電力系統が( 重負荷 )のときは、同期調相機の界磁を( 強め )、電力系統から進み電流をとって( 容量性 )負荷として働かせ電圧降下を抑制する。逆に電力系統が( 軽負荷 )のときは、同期調相機の界磁を( 弱め )、電力系統から遅れ電流をとって( 誘導性 )負荷として働かせ電圧上昇を抑制する。
答え (1)
1999年(平成11年)問6
電力系統にはさまざまなリアクトルが使用されている。深夜等の軽負荷時の電圧上昇を防ぐためには( ア )リアクトルが、電力用コンデンサの高調波対策には( イ )リアクトルが使用されている。また、送電系統の短絡電流を抑制するためには( ウ )リアクトルが、1線地絡時の地絡電流を小さくするためには( エ )リアクトルが使用されている。
上記の記述中の空白の(ア),(イ),(ウ)及び(エ)に記入する字句として、正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | |
(1) | 分路 | 直列 | 限流 | 中性点 |
(2) | 並列 | 直列 | 限流 | 分路 |
(3) | 直列 | 並列 | 直流 | 分路 |
(4) | 分路 | 並列 | 消弧 | 直列 |
(5) | 直列 | 分路 | 直流 | 中性点 |
1999年(平成11年)問6 過去問解説
電力系統にはさまざまなリアクトルが使用されている。深夜等の軽負荷時の電圧上昇を防ぐためには( 分路 )リアクトルが、電力用コンデンサの高調波対策には( 直列 )リアクトルが使用されている。また、送電系統の短絡電流を抑制するためには( 限流 )リアクトルが、1線地絡時の地絡電流を小さくするためには( 中性点 )リアクトルが使用されている。
答え (1)
2001年(平成13年)問6
電力系統において無効電力を調整する方法として、適切でないのは次のうちどれか。
- 負荷時タップ切換変圧器のタップを切り替えた。
- 重負荷時に、電力用コンデンサを系統に接続した。
- 軽負荷時に、分路リアクトルを系統に接続した。
- 負荷に応じて同期調相器の界磁電流を調整した。
- 静止形無効電力補償装置(SVC)により、無効電力を調整した。
2001年(平成13年)問6 過去問解説
タップ切換変圧器は一次電圧の低下による二次電圧の電圧の低下を防止するために、一次側コイルにタップ端子をつけて、巻線比を変えることにより、二次電圧を規定値に保つことのできる変圧器です。無効電力の調整はできません。
答え (1)
2004年(平成16年)問8
一般に電力系統では、受電端電圧を一定に保つため、調相設備を負荷と( ア )に接続して無効電力の調整を行っている。
電力用コンデンサは力率を( イ )ために用いられ、分路リアクトルは力率を( ウ )ために用いられる。
同期調相機は、その( エ )を加減することによって、進み又は遅れの無効電力を連続的に調整することができる。
静止形無効補償装置は、( オ )でリアクトルに流れる電流を調整することにより、無効電力を高速に制御することができる。
上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ),(エ)及び(オ)に記入する語句として、正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | (オ) | |
(1) | 並列 | 進める | 遅らせる | 界磁電流 | 半導体スイッチ |
(2) | 直列 | 遅らせる | 進める | 電機子電流 | 半導体整流装置 |
(3) | 並列 | 遅らせる | 進める | 界磁電流 | 半導体スイッチ |
(4) | 直列 | 進める | 遅らせる | 電機子電流 | 半導体整流装置 |
(5) | 並列 | 遅らせる | 進める | 電機子電流 | 半導体スイッチ |
2004年(平成16年)問8 過去問解説
一般に電力系統では、受電端電圧を一定に保つため、調相設備を負荷と( 並列 )に接続して無効電力の調整を行っている。
電力用コンデンサは力率を( 進める )ために用いられ、分路リアクトルは力率を( 遅らせる )ために用いられる。
同期調相機は、その( 界磁電流 )を加減することによって、進み又は遅れの無効電力を連続的に調整することができる。
静止形無効補償装置は、( 半導体スイッチ )でリアクトルに流れる電流を調整することにより、無効電力を高速に制御することができる。
答え (1)
2006年(平成18年)問5
交流送配電系統では、負荷が変動しても受電端電圧値をほぼ一定に保つために、変電所等に力率を調整する装置を設置している。この装置を調相設備という。
調相設備には、( ア )、( イ )、同期調相機等がある。( ウ )には( ア )により調相設備に進相負荷をとらせ、( エ )には( イ )により遅相負荷をとらせて、受電端電圧を調整する。同期調相機は界磁電流を調整することにより、上記いずれの調整も可能である。
上記の記述の空白箇所(ア),(イ),(ウ)及び(エ)に当てはまる語句として、正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | |
(1) | 電力用コンデンサ | 分路リアクトル | 重負荷時 | 軽負荷時 |
(2) | 電力用コンデンサ | 分路リアクトル | 軽負荷時 | 重負荷時 |
(3) | 直列リアクトル | 電力用コンデンサ | 重負荷時 | 軽負荷時 |
(4) | 分路リアクトル | 電力用コンデンサ | 軽負荷時 | 重負荷時 |
(5) | 電力用コンデンサ | 直列リアクトル | 重負荷時 | 軽負荷時 |
2006年(平成18年)問5 過去問解説
交流送配電系統では、負荷が変動しても受電端電圧値をほぼ一定に保つために、変電所等に力率を調整する装置を設置している。この装置を調相設備という。
調相設備には、( 電力用コンデンサ )、( 分路リアクトル )、同期調相機等がある。( 重負荷時 )には( 電力用コンデンサ )により調相設備に進相負荷をとらせ、( 軽負荷時 )には( 分路リアクトル )により遅相負荷をとらせて、受電端電圧を調整する。同期調相機は界磁電流を調整することにより、上記いずれの調整も可能である。
答え (1)
2011年(平成23年)問8
受変電設備や送配電設備に設置されるリアクトルに関する記述として、誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
- 分路リアクトルは、電力系統から遅れ無効電力を吸収し、系統の電圧調整を行うために設置される。母線や変圧器の二次側・三次側に接続し、負荷変動に応じて投入したり切り離したりして使用される。
- 限流リアクトルは、系統故障時の故障電流を抑制するために用いられる。保護すべき機器と直列に接続する。
- 電力用コンデンサに用いられる直列リアクトルは、コンデンサ回路投入時の突入電流を抑制し、コンデンサによる高調波障害の拡大を防ぐことで、電圧波形のひずみを改善するために設ける。コンデンサと直列に接続し、回路に並列に設置する。
- 消弧リアクトルは、三相電力系統において送電線路にアーク地絡を生じた場合、進相電流を補償し、アークを消滅させ、送電を継続するために用いられる。三相変圧器の中性点と大地間に接続する。
- 補償リアクトル接地方式は、66kVから154kVの架空送電線において、対地静電容量によって発生する地絡故障時の充電電流による通信機器への影響を抑制するために用いられる。中性点接地抵抗器と直列に補償リアクトルを接続する。
2011年(平成23年)問8 過去問解説
補償リアクトル接地方式は、中性点接地抵抗器とリアクトルを並列にして接地したものです。リアクトルにより地絡時の地絡電流中の充電電流を減らすことにより、地絡事故点の電流を減らすことができます。
答え (5)
2012年(平成24年)問8
次の文章は、調相設備に関する記述である。
送電線路の送・受電端電圧の変動が少ないことは、需要家ばかりでなく、機器への影響や電線路にも好都合である。負荷変動に対応して力率を調整し、電圧値を一定に保つため、調相設備を負荷と( ア )に接続する。
調相設備には、電流の位相を進めるために使われる( イ )、電流の位相を遅らせるために使われる( ウ )、また、両方の調整が可能な( エ )や近年ではリアクトルやコンデンサの容量をパワーエレクトロニクスを用いて制御する( オ )装置もある。
上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ),(エ)及び(オ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | (オ) | |
(1) | 並列 | 電力用コンデンサ | 分路リアクトル | 同期調相機 | 静止形無効電力補償 |
(2) | 並列 | 直列リアクトル | 電力用コンデンサ | 界磁調整器 | PWM制御 |
(3) | 直列 | 電力用コンデンサ | 直列リアクトル | 同期調相機 | 静止形無効電力補償 |
(4) | 直列 | 直列リアクトル | 分路リアクトル | 界磁調整器 | PWM制御 |
(5) | 直列 | 分路リアクトル | 直列リアクトル | 同期調相機 | PWM制御 |
2012年(平成24年)問8 過去問解説
送電線路の送・受電端電圧の変動が少ないことは、需要家ばかりでなく、機器への影響や電線路にも好都合である。負荷変動に対応して力率を調整し、電圧値を一定に保つため、調相設備を負荷と( 並列 )に接続する。
調相設備には、電流の位相を進めるために使われる( 電力用コンデンサ )、電流の位相を遅らせるために使われる( 分路リアクトル )、また、両方の調整が可能な( 同期調相機 )や近年ではリアクトルやコンデンサの容量をパワーエレクトロニクスを用いて制御する( 静止形無効電力補償 )装置もある。
答え (1)