このページでは、直流電動機の始動と速度制御について、初心者の方でも解りやすいように、基礎から解説しています。また、電験三種の機械科目で、実際に出題された直流電動機の始動と速度制御の過去問題の解き方も解説しています。
始動器
図(a)において、抵抗 $R$ が 0[Ω]で端子電圧を $V$[V]とすると、電機子電流 $I_a$[A]は $I_a=\displaystyle\frac{V-K_1ϕn}{R_a}$ で表されます。 電圧を加えた瞬間は、回転速度が $n$[min-1]であるので、逆起電力 $E$[V]は、$E=K_1ϕn =0$ で、電機子電流 $I_a=\displaystyle\frac{V}{R_a}$ となります。
実際の電動機の電機子巻線抵抗 $R_a$[Ω]はきわめて小さいので、過大な電流が流れ、電機子巻線を焼損するおそれがあります。これを防止するためには、始動時に電機子の回路に直列に抵抗 $R$[Ω]を接続しておき、端子電圧 $V$[V]を加えます。そして、回転速度 $n$[min-1]が上昇するに従って、その抵抗値 $R$[Ω]を減少させ、始動時の電流を制限しています。この抵抗 $R$ を始動抵抗といい、その装置を始動器といいます。また、電動機の電源スイッチを閉じた直後の、いわゆる始動時の最大電流を始動電流といいます。図(b)は実際に用いられている始動器の回路図です。
速度制御
負荷に直結された電動機は、回転速度を必要に応じて変化させたいことがあります。このように、回転速度を変えることを速度制御といいます。電機子の回路に直列抵抗 $R$[Ω]を挿入したときの直流電動機の回転速度 $n$[min-1]は、次の式で表すことができます。
$n=\displaystyle\frac{V-I_a(R_a+R)}{K_1ϕ}$
回転速度 $n$[min-1]を変えるには、界磁磁束 $ϕ$[Wb]、直列抵抗 $R$[Ω]、端子電圧 $V$[V]のいずれかを変えます。これらによる速度制御法をそれぞれ界磁制御法・抵抗制御法・電圧制御法といいます。
界磁制御法
界磁調整器を加減して界磁磁束の大きさを変え、速度制御をする方法です。分巻電動機では、界磁抵抗器の抵抗値 $R_f$[Ω]を変えて回転速度を制御します。
抵抗制御法
電機子の回路に直列に抵抗 $R$ を挿入して速度制御をする方法です。
電圧制御法
電機子巻線に加える電圧 $V$[V]を変化させて速度制御をする方法です。 ワード・レオナード方式は電動機の電機子に加える電圧 $V$[V]を、専用の直流電源で可変して供給するようにしたものです。
また、他励発電機のかわりにサイリスタを用いて電機子電圧を制御するものを、静止レオナード方式といいます。
直並列制御法
2台の同じ直巻電動機を直列または並列に接続し、電動機1台に加える電圧を変えることによって速度制御をする 方法です。この方法は、抵抗制御またはチョッパ制御と組み合わせて、電気車用直巻電動機の速度制御に用いられます。
逆転法
電動機の回転の向きを変えることを逆転といいます。直流電動機を逆転させるには、原理的には、電機子電流と界磁電流のうち、どちらかの電流の向きを変えます。しかし、一般的には電機子電流の向きを変える方法が用いられています。
制動法
制動とは、運転中の電動機を急速に停止させる方法です。制動には機械的な摩擦による方法のほかに電気的制動法があります。電気的制動法には次の3種類があります。いずれも回転エネルギーを電気エネルギーに変換するものです。
発電制動
電機子回路だけを切り離して、その両端に抵抗器をつないで、他励発電機として運動エネルギーを抵抗器により消費させて制御する方法です。
回生制動
電車が勾配を下るような場合、電動機が受ける動力で電動機を発電機に変え、その発生した電力を電源に送り返す方法です。
逆転制動
運転中の電動機の界磁回路はそのままで、電機子回路だけ逆に接続すると起電力と同方向に端子電圧が加わり、電機子電流が電動機のときと逆方向に流れます。それにより大きい逆トルクが発生し制動がかかる方法です。
電験三種-機械(直流機)過去問
1997年(平成9年)問5
直流式電気鉄道用の駆動電動機には、直流( ア )が用いられ、車両の制動は、機械式ブレーキのほかに電気式ブレーキを併用している。電気式ブレーキは、制動時には界磁巻線の結線を切替えて、電動機を発電機として発電する方式である。この発電された電力を抵抗器によって消費することにより制動する方式をギャップの磁束密度は( イ )ブレーキといい、発電された電力をチョッパ制御等により電源に戻すことにより制動する方式を( ウ )ブレーキという。
上記の記述中の空白の(ア),(イ)及び(ウ)に記入する字句として、正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。
(ア) | (イ) | (ウ) | |
(1) | 直巻電動機 | 抵 抗 | チョッパ発電 |
(2) | 分巻電動機 | 電力回生 | チョッパ発電 |
(3) | 直巻電動機 | 発 電 | 電力回生 |
(4) | 分巻電動機 | 電力回生 | 発 電 |
(5) | 分巻電動機 | 発 電 | 電力回生 |
1997年(平成9年)問5 過去問解説
直流式電気鉄道用の駆動電動機には、直流( 直巻電動機 )が用いられ、車両の制動は、機械式ブレーキのほかに電気式ブレーキを併用している。電気式ブレーキは、制動時には界磁巻線の結線を切替えて、電動機を発電機として発電する方式である。この発電された電力を抵抗器によって消費することにより制動する方式をギャップの磁束密度は( 発電 )ブレーキといい、発電された電力をチョッパ制御等により電源に戻すことにより制動する方式を( 電力回生 )ブレーキという。
答え (3)
2000年(平成12年)問1
直流分巻電動機の端子電圧を $V$[V]、電機子回路の抵抗を $R_a$[Ω]、界磁磁束を $ϕ$[Wb]、電機子の回転速度を $n$[min-1]、構造から決まる定数を $K$ とすれば、電機子電流 $I_a$ は、
$I_a=\displaystyle\frac{V-( ア )}{R_a}$[A]
で表される。この式の分子の( ア )の項は( イ )で、電動機が始動を開始した瞬間は $n=0$ により、この項は零となるので、$I_a$ は、$Ia=\displaystyle\frac{V}{R_a}$[A]となる。実際の直流分巻電動機の電機子回路の抵抗 $R_a$ は非常に小さいので、始動開始の時には、電機子巻線に過大な( ウ )が流れる。これを防止するために、( エ )の回路に直列に始動抵抗を接続する。
上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ)及び(エ)に記入する記号又は語句として,正しいものを組み合わせたのは次のうちどれか。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | |
(1) | $Kϕn^2$ | 電圧降下 | 始動電流 | 電機子巻線 |
(2) | $Kϕn$ | 電圧降下 | 界磁電流 | 界磁巻線 |
(3) | $Kϕn$ | 逆起電力 | 界磁電流 | 電機子巻線 |
(4) | $Kϕn^2$ | 逆起電力 | 始動電流 | 界磁巻線 |
(5) | $Kϕn$ | 逆起電力 | 始動電流 | 電機子巻線 |
2000年(平成12年)問1 過去問解説
直流分巻電動機の端子電圧を $V$[V]、電機子回路の抵抗を $R_a$[Ω]、界磁磁束を $ϕ$[Wb]、電機子の回転速度を $n$[min-1]、構造から決まる定数を $K$ とすれば、電機子電流 $I_a$ は、
$I_a=\displaystyle\frac{V-( Kϕn )}{R_a}$[A]
で表される。この式の分子の( $Kϕn$ )の項は( 逆起電力 )で、電動機が始動を開始した瞬間は $n=0$ により、この項は零となるので、$I_a$ は、$Ia=\displaystyle\frac{V}{R_a}$[A]となる。実際の直流分巻電動機の電機子回路の抵抗 $R_a$ は非常に小さいので、始動開始の時には、電機子巻線に過大な( 始動電流 )が流れる。これを防止するために、( 電機子巻線 )の回路に直列に始動抵抗を接続する。
答え (5)
2015年(平成27年)問2
次の文章は、直流機に関する記述である。
図は、ある直流機を他励発電機として運転した場合と分巻発電機として運転した場合との外部特性曲線を比較したものである。回転速度はいずれも一定の同じ値であったとする。このとき、分巻発電機の場合の特性は( ア )である。
また、この直流機を分巻発電機として運転した場合と同じ極性の端子電圧を外部から加えて分巻電動機として運転すると、界磁電流の向きは発電機運転時と( イ )となり、回転方向は( ウ )となる。これらの向きの関係から、分巻機では、電源電圧を誘導起電力より低くすることで、電動機運転の状態から結線を変更せずに( エ )ができ、エネルギーを有効に利用できる。
上記の記述中の空白箇所(ア),(イ),(ウ)及び(エ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | |
(1) | A | 同じ向き | 逆向き | 回生制動 |
(2) | B | 同じ向き | 同じ向き | 回生制動 |
(3) | A | 逆向き | 逆向き | 発電制動 |
(4) | B | 逆向き | 同じ向き | 回生制動 |
(5) | A | 逆向き | 同じ向き | 発電制動 |
2015年(平成27年)問2 過去問解説
図は、ある直流機を他励発電機として運転した場合と分巻発電機として運転した場合との外部特性曲線を比較したものである。回転速度はいずれも一定の同じ値であったとする。このとき、分巻発電機の場合の特性は( B )である。
また、この直流機を分巻発電機として運転した場合と同じ極性の端子電圧を外部から加えて分巻電動機として運転すると、界磁電流の向きは発電機運転時と( 同じ向き )となり、回転方向は( 同じ向き )となる。これらの向きの関係から、分巻機では、電源電圧を誘導起電力より低くすることで、電動機運転の状態から結線を変更せずに( 回生制動 )ができ、エネルギーを有効に利用できる。
答え (2)
2017年(平成29年)問2
界磁に永久磁石を用いた磁束一定の直流機で走行する車があり、上り坂で電動機運転を、下り坂では常に回生制動(直流機が発電機としてブレーキをかける運転)を行い、一定の速度(直流機が一定の回転速度)を保って走行している。この車の駆動システムでは、直流機の電機子銅損以外の損失は小さく無視できる。
電源の正極側電流、直流機内の誘導起電力などに関する記述として、誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
- 上り坂における正極側の電流は、電源から直流機へ向かって流れている。
- 上り坂から下り坂に変わるとき、誘導起電力の方向が反転する。
- 上り坂から下り坂に変わるとき、直流機が発生するトルクの方向が反転する。
- 上り坂から下り坂に変わるとき、電源電圧を下げる制御が行われる。
- 下り坂における正極側の電流は、直流機から電源へ向かって流れている。
2017年(平成29年)問2 過去問解説
電動機運転から発電機としてブレーキをかける運転に切り替わっても、誘導起電力の方向(正負)が反転するわけではありません。誘導起電力の大きさが増加するだけなので、(2)の記述が誤りとなります。
答え (2)