これだけは知っておきたい電気設備の基礎知識をご紹介します。このページでは「単相交流の特徴」について、維持管理や保全などを行う電気技術者の方が、知っておくとためになる電気の基礎知識を解説しています。
単相交流とは
単相交流は電源に第1図 (a)に示すような1組の正弦波交流起電力をもち、これに負荷を接続したものが単相交流回路です。正弦波交流電圧の瞬時値 $v$ は $v=E_msin 2πft=\sqrt{3}Esinωt$ [V]で表わされ、$E_m$ は最大値、$E$ は実効値、$π$ は円周率、$f$ は周波数で、$2πf=ω$〔rad/s〕を角周波数といいます。
電気工学では交流を扱う場合、角度をラジアン〔rad〕で表わすのが普通で、180°は $π$〔rad〕、360°は $2π$ 〔rad〕です。また $ωt$ は回転角度で、$t=T$〔秒〕、すなわち交流の1周期で $ωt=2πft=2π(\displaystyle \frac{ 1 }{ T })T=2π$ となり、角度が 360°変化します。
正弦波交流のベクトル表示
回転ベクトル
第1図(a)の正弦波交流は(b)図の回転ベクトルで表わすことができます。すなわち、(b)図において、O を中心に $x$ 軸上を起点として $\overline{OA}$($E_m$ に等しい長さにとる)を、一定角速度 $ω$〔rad/s〕で反時計方向に回転させると、任意の時間 $t$ 秒後の $\overline{OA}$ の $y$ 軸上の正投影は $\overline{OA}sinωt=E_msinωt$ となり、正弦波交流の瞬時値を表わします。例えば、回転角 $ωt_1$ での交流波形の瞬時値は $v_1=E_msinωt$ 、回転ベクトルでは $x$ 軸を起点として反時計方向に角度 $ωt_1$ をとり、$P_1$ 点での $OA$ の $y$ 軸上の正投影は $oa=\overline{OA}sinωt_1=E_msinωt_1=v_1$となり、同じ交流の瞬時値を表わします。
静止ベクトル
第2図 (a)に示すような周波数の等しい2つの交流電圧 $e_1,e_2$ があります。この $e_1,e_2$ を回転ベクトルで表示すると、(b)図のようになり、OA( $e_1$ ) を $x$ 軸上よリスタートさせると、OB( $e_2$ )は $x$ 軸より時計方向に $α$〔rad〕だけ開いた位置よリスタートし、角度 $α$ を保ちながら、$e_1$ と同じ角速度 $ω$ で反時計方向に回転します。 この $α$ を位相角といい、$e_1$ は $e_2$ より位相が $α$〔rad〕進んでいるといいます (ベクトル図で反時計方向を進み、時計方向を遅れといい、$e_2$ は $e_1$ より位相 が $α$ 遅れているといっても同じです)。 $e_1,e_2$ の実効値をそれぞれ $E_1,E_2$ とすれば、この 2つの交流は $e_1=\sqrt{2}E_1sinωt$,$e_2=\sqrt{2}E_2sin(ωt-α)$ で表わされます。
ところで、交流を扱う場合、その瞬時値はあまり重要ではなく、電圧、電流間の相互関係および、電圧、電流の電気機器に対する電気的効果を知りたいときにのみに使います。 したがって、ベ クトル図も、実際の電気的作用を表わす実効値と位相角を表わせば十分で、交流電圧 $e_1$, $e_2$ 表わす場合は、ベクトル OA,OB を実効値にとった第3図のような静止ベ クトルで表わします。なお、ベクトルは大きさと方向をもっていますので、 $e_1,e_2$ のベクトルを表示するのに $\dot{E_1},\dot{E_2}$ と表わし、$\dot{E_1}$ を基準にとった場合は、これを基準ベクトルといいます。
ベクトルの合成
交流電圧 $e_1,e_2$ を合成する場合、ベクトルを用いると便利です。第3図で示すように、$\dot{E_1}$ と $\dot{E_2}$ をベクトル和すると、合成されたベクトルは $\dot{E_3}$ のようになり、その大きさは、
$E_3=\sqrt{(E_1+E_2cosα)^2+(E_2sinα)^2}$
となります。 したがって $e_1,e_2$ を合成した電圧 $e_3$ は、実効値が $E_3$ で、位相が $e_1$ より $β$〔rad〕だけ遅れた $e_1,e_2$ と同一周波数をもつ交流電圧となります。 $e_3$ を波形で示すと第2図 (a)の点線のようになり、$e_3=e_1+e_2=\sqrt{2}E_3sin(ωt-β)$〔V〕で表わすことができます。なお $β=\displaystyle \frac{ tan^{-1}(E_2sinα)}{(E_1+E_2cosα)}$ です。このようにベクトルを用いると、交流の電圧間、あるいは電圧、電流間の和,差,積,商を簡単に求めることができます。
小容量負荷電源としての単相交流
単相交流は、住宅やビル等において身近に使える電源として、非常に便利なものですが 、その反面、電気の知識に乏しい人が扱う場合が多く、感電や漏電による火災等のおそれがあるので、電気設備技術基準において、電圧、コンセント容量などが規制されており、電圧については、屋 内で使用するものは対地電圧が 150〔V〕 以下と定められています。 このような理由で、 屋内における単相交流の電圧は普通 100V で供給されています。
この 100V 単相交流で、容量の大きい電気機器に電力を供給すると、流れる電流が大きくなるので、電線サイズの大きいものを使う必要があり、三相交流などの配電方式に比べ不経済になります。したがって、単相交流は、照明、あるいはコンセントに接続して使われます。テレビ、冷蔵庫、小形事務機器などの 数十W~数百W 程度の小容量電気機器の電源として使われます。
単相2線式と単相3線式
わが国の照明器具、小形電気機械器具の標準電圧は単相の 100V が一般的ですから、これに供給する配電方式も第4図に示すような 100V 単相 2線式が多いです。なお、ビルなどのように負荷密度の高い場所には、単相3線式が用いられています。単相3線式は単相2線式に比べ、電線の大さを同一とすると、2倍の電力を供給することができ、さらに両外線間の電圧が 200〔V〕であるにもかかわらず、対地電圧は 100〔V〕であるという有理な点があります (第5図参照)。
単相3線式においては、外線と中性線間の単相 100〔V〕は、コンセント、照明に使われ、両外線間の単相 200〔V〕は、200V 蛍光灯あるいは、冷暖房機器や大形事務機器などの比較的容量の大きい 200V 使用電気機器の電源として使われています。第6図に実際の単相3線式分電盤の内部接続を示します。
単相 3線式で注意することは、負荷の不平衡、中性線の断線、両外線間の短絡などで、負荷電圧に不平衡を生じることです。たとえば、第7図に示すように中性線が断線すると、負荷 $P_l,P_2$ の容量に反比例して 200〔V〕の電圧が分圧され、aO間には 150〔V〕、bO間には 50〔V〕の電圧が加わり、電圧が不平衡となって危険です。したがって、単相3線式においては、負荷をできるだけ平衡させ、中性線にはヒューズなどの自動しゃ断器は取付けません。ただし、過電流などの故障時に、中性線と外線が同時にしゃ断できるように施設する場合は、中性線に自動しゃ断器を設けてもよいことになっています。
分電盤における分岐回路
分電盤において、100V および 200V 回路の分岐は、1回路当たり、12~ 15〔A〕の負荷を想定して配線され、分岐回路保護用として、15〔A〕あるいは 20〔A〕定格のMCBなどが取付けられています。容量が 1kW を超える電気機器がある場合は、専用の分岐回路を設けます。コンセントは、1分岐回路当たり 10 個以下とし、1 個当たり 1.5〔A〕程度の負荷を想定して施設されています。