これだけは知っておきたい電気設備の基礎知識をご紹介します。このページでは「電圧降下と電力損失」について、維持管理や保全などを行う電気技術者の方が、知っておくとためになる電気の基礎知識を解説しています。
配電線の電圧降下と電力損失
負荷に電力を供給するには送配電線が必要です。ところで 、電線やケ ーブルには、抵抗 ・インダクタンス・静電容量があり、これらに電流が流れると、抵抗のオーム損による有効に利用されない電力損失を生じたり、電線インピーダ ンスによる電圧降下はなど、負荷にいろいろな悪影響を与えます。
第1図 (a)に示すような単相交流配電線があり、電線1条当りの抵抗を $R$〔Ω〕、誘導リアクタンスを$X$〔Ω〕(静電容量は一般の配電線では無視してよい)、 負荷の電力を $P$〔W〕、力率を遅れ $cosθ$、電源電圧を $V_S$〔V〕、負荷端子電圧を $V_R$〔V〕とした場合の、電線路の電圧降下 $V_l$、電力損失 $P_l$ を求めてみます。
電線路を流れる電流 $I$ は、$I=\displaystyle \frac{P}{V_R}cosθ$〔A〕ですので、$R$の電圧降下 $IR$($I$ と同相)、$X$の電圧降下 $IX$ ($I$ より90°進み)は 第 1図 (b)のベクトル図のようになります。このベクトル図より $V_S$ を求めると、
$V_S≒V_R+2RIcosθ+2IXsinθ=V_R+2I(Rcosθ+Xsinθ)$〔V〕
(OPとOP′の差はわずかであり $V_S=$OPとする)
となり、$2I(Rcosθ+Xsinθ)$ は単相2線式電線路の電圧降下 $V_l$ を表わしています。上式より $V_R=V_S-V_l$ であるから、負荷電流 $I$ が変化すると、線路電圧降下 $V_l$ が変化し、負荷端子電圧 $V_R$ が変動することになります。また、電線路の電力損失 $P_l$ は
$P_l=2I^2R$〔W〕
で表わされます。
三相3線式交流配電線の場合は、$V_S,V_R$ に線間電圧をとると、電圧降下 $V_l$ は電線1条の電圧降下の $\sqrt{3}$ 倍になり、
$V_R=V_S-\sqrt{3}I(Rcos θ+Xsinθ)=V_S-V_l$〔V〕
$P_l=3I^2R$〔W〕
$I=\displaystyle \frac{P}{\sqrt{3}V_R}cos θ$〔A〕
で表わされます。
力率改善と電圧降下、電力損失
第1図において、負荷と並列にコンデ ンサを接続して、力率を 100% に改善すると、第3図のベクトル図でわか るように、負荷の遅れ無効電流 $Isinθ$ は、コンデンサに流れる電流 $I_C$ により打ち消され、線路を流れる電流は負荷の有効電流 $Icosθ$ だけとなります。
この場合の電力損失 $P_l’$ 、電圧降下 $V_l’$ は、
$P_l’=2(Icosθ)^2R$〔W〕
$V_l’≒2IRcosθ$〔V〕
となり、負荷の力率を 80%とし、$R=X$ とすれば
$ \displaystyle \frac{P_l’}{P_l}=\displaystyle \frac{2(Icosθ)^2R}{2I^2R}2=(cosθ)^2=0.64$
$ \displaystyle \frac{V_l’}{V_l}=\displaystyle \frac{2IRcosθ}{2I(Rcosθ+Xsinθ)}=\displaystyle \frac{cosθ}{cosθ+sinθ}≒0.57$
すなわち、力率を 100%に改善すると、電力損失は 64 %,電 圧降下は 57 %に減少し、効果は大きくなります。
電力損失、電圧降下を減少させるには
$P_l$、$V_l$ の式でわかるように、電線路の電力損失、電圧降下は、負荷電流 $I$、力率 $cosθ$、電線のインピーダンス ( $R,L$ )により左右されます。したがって、電圧降下、電力損失を軽減するには、
- 配線距 離を極力短くする。あるいは電線サイズを大きくして、線路インピーダンスを低下させる。
- 配電電圧を高くする。力率を改善するなどを行ない、線路電流の減少を図る。
- 電動機の起動電流、アーク溶接機などのように、電流変化が大きい場合、電圧変動によリフリッカを生 じるので、このような負荷への配線は、他の負荷の場合より電線サイズを大きく選定する。 あるいは専 用配線とし、容量の大きい変圧器 (内部インピーダ ンスが小さく電圧降下が少ない)にできるだけ近い配電幹線に接続し、電圧変動を少なくする。
電圧変動が電気機器に与える影響
電気機器は定格の一定電圧、一定周波数で使用するように設計、製作されています。周波数は電力会社の系統が強力に連系され周波数調整が行なわれていますので、ほとんど一定と考えて良いのですが、電圧は前述のように変動し、一定にするのは困難です。この電圧変動が電気機器に与える影響を、代表的負荷設備である白熱灯、 蛍光灯、三相誘導電動機について説明します。
白熱電球、蛍光灯
白熱電球、蛍光灯の電圧変動と寿命、光束、電流の変化を第4図に示します。白熱電球の場合、電圧の変動はフィラメント温度に関係し、電圧が定格より上昇すると、電流が増え、フィラメント温度が上昇して光束は増加しますが、フィラメントの蒸発が激しくなり寿命は急激に低下します ( 5%の過電圧で、寿命は約 45%短くなる)。
蛍光灯の場合は、安定器を有しているため、電圧が変動すると、安定器と蛍光ランプの電圧配分が異なり、ランプ電流が変化すします。ランプ電流の増減は、ランプの電子放射電極の消耗をきたし。電圧が高くても、低くて も寿命は低下しますので、定格電圧の ±5%で使用するのが望ましい。 また、電圧が変動すると、照明のちらつきを生じますが、人間に最も感じやすい電圧フリッカの周期は 10 Hz( 1秒間に数回)程度です。
三相誘導電動機
三相誘導電動機のトルクは電圧 $V$ の2乗に比列します。したがって供給電圧が電動機定格電圧の 80%になると、トルクは 64% 減少します。第5図に三相誘導電動機のトルク特性を示しますが、電圧が低下した場合の影響は次のようになります。
負荷トルクaの場合 (ポンプ、送排風機等)
電圧が低下すると、速度が $N$ から $N_1$ に低下し、流量,送風量が低下( $Q$ は $N$ に比例)、 出力も減少 (出力は $N^3$ に比例)します。また、入力電流もわずかに減少します。
さらに電圧が低下すると回転速度も低下し、場合によっては流量が著しく減少し揚水不能となるとともに、この状態で長時間運転すると、すべり s が大きいので回転子銅損 〔すべり $s=(N_S-N)/N_S$、$N_S$ は同期速度 、回転子銅損=出力×${s/(1-s)}$〕が増加して、電動機温度が上昇するので、十分注意が必要です。
また、電圧が低下した状態で電動機を起動すると、加速トルクが小さいので起動時間が長くなり、電動機も過熱 されます。
負荷トルクbの場合 (クレーン、エ レベーター等)
電圧が低下すると回転速度が $N$ から $N_2’$ に低下し、作業能率を低下させるとともに、同一出力に対し、すべり s が増加するので、入力電流の増加、回転子銅損の増加、効率の低下をもたらし、電動機の温度は上昇します。
さらに、電圧が低下して電動機最大トルクが、負荷トルクより少 なくなると、電動機は停止してしいます。また、図では、始動トルクが、負荷トルクより小さいので、電動機は始動不能となります (通常は最大トルクを負荷トルクに対し充分大きくとっているので、このようなことはまずない)。
次に電圧が上昇した場合は、磁電流が増加するので力率が悪くなり、特に界磁回路の磁束密度を高く設計してある電動機は、電圧の上昇とともに励磁電流が急増し、場合によっては運転不能となります。電圧変動の影響は、大形電動機よりも、3.7kW以下の小形電動機の方が受けやすいので、小形電動機では温度上昇等に十分注意す る必要があります。
しかし、一般の誘導電動機は定格電圧の±10%以内の電圧変動ならば、支障なく運転できるように設計されているので、この範囲内の電圧変動ならば心配はいりません。